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ぼくたちの黙示録  作者: 野蒜
旅の始まり
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第10話 前途多難

暗い闇夜の中、勝治と唯と萬は、外と内地を分け隔てた金網と腐った木材と有刺鉄線の壁の前にまで、身をかがめ、息を殺し、番兵の隙をぬい辿り着く。


番兵のスポットライトや懐中電灯の光は目が眩むほど眩しく輝き、あれに照らされたらそこで人生の終焉を意味したが、運び屋として薬や銃を運び続けてきた勝治と唯にとっては日常でもあった。


しかし萬はそうもいかない、必死に強がっているが、まだ見るからに未成年、近くを番兵が通りかかる度に、押さえ込みが効かない恐怖に襲われ、冷や汗が滲み出る。


そんな萬に、唯は優しく微笑みかけ、萬もまたそんな唯の優しい表情に緊張がほぐれた。


壁の抜け穴まであと少しのところ、番兵が見当たらないところで、ようやく勝治は2人に声をかけることが出来た。


「懐かしいな、唯も最初はお前みたいだったんだ」


「そうでしたね、かっちゃんも強がってましたけど、震えてるのが面白かったんですよ」


萬はそんな昔のふたりを想像して笑う、そうしてるうちに抜け穴に立てかけられた木の板を見つけると取り外し、まずは唯を外に出し、次に萬、最後に蓋をしながら勝治が外に出る。


すぐ外にはゾンビの死体が銃撃によって頭を割られ、緑や黄色の体組織を零し、血はまだ死体が新しいからなのか、スポットライトの光を鈍く反射させていた。


思わず萬は口元を覆って顔を白くさせるが、勝治と唯のふたりは慣れた様子で、バールやナイフを手に取り、萬を挟むようにして薬局へと向かう、目の前は爆破した建物や車の残骸、放置や投棄された死体の骨が転がり、まさに地獄絵図だった。


「なんでこんな」


勝治はまるでこの駐屯地のことを知らない萬を見て、疑問を感じた、ここで生まれた子供ならこの惨状を口伝で多少なりとも知っているはずだったからだ。


「萬、お前ここの出身か?」


「違うけど?なにか文句でもある?」


唯とは早々に打ち解けたが、萬の勝治に対する素っ気ない態度との差で少しイラつきを覚えたが、そんな時、瓦礫に隠れながらもようやく薬局が見えてきたところで、完全に気が抜けた萬は走り出してしまう。


「おいバカ!!」


勝治と唯の2人は萬を止めようと走り出すが、もうその頃には遅かった。


萬は薬局に入り、裏口はどこだと探そうとした時、何者かとぶつかると尻もちを着いてしまい、痛がりながら、目の前に立つ男を見上げた。


それはライトが着いたライフル銃を持ち、プロテクター付きの迷彩服に半長靴、顔はフルフェイスのヘルメットを被り、その銃口を萬に向けていた。


「動くな!!」


遅れて入ってきた勝治と唯に気づいた男は、銃口を忙しなく3人に向けて、顔を確認すると、銃口を向けたまま、ヘルメットを外す、その顔は勝治が車と食料を依頼したあの男だった。


増渕(ますぶち)か?」


「なんで、あぁクソ!!よりによって今日なんだよ!!」


確かに勝治と唯は大捜索の日程を把握しているはずであったが、こうなっては仕方が無いと、バールとナイフを2人は静かに握り、左手の平を増渕に対して突き出してなだめようとする。


「その子を運ぶだけなんだ、銃を下ろしてくれ」


「俺以外にも居るんだ、見逃すなんてしたら俺まで殺されちまう!!」


銃口をさらに萬へと近づけ今にも引き金を引こうとする増渕に、唯も焦り、必死に気を引こうと言葉を投げかける。


「薬の取引先も教えますから、どうかここは穏便に行きましょう?」


「穏便!?あぁ俺は冷静さ、あんたらが悪いんだ!!」


視線が唯の方へと移ったその一瞬の隙に、萬はどこから取り出したか分からない折りたたみナイフで、増渕の左太ももを突き刺す、激痛に喘ぐ増渕は、思わず引き金を引いてしまい弾丸が何発か放たれると、それは唯と勝治を遅い、咄嗟の判断で勝治は唯を庇おうと前に出る、そして増渕はそのまま、その銃床で萬の顔を殴る。


「このクソガキが!!」


そして今度こそ萬を撃ち殺そうと怒りに満ちた表情で引き金を絞ろうとする増渕。


そして力なく鼻と口元の傷から血を流す萬と美優の姿と、そして妹の姿が重なった勝治は、止められない怒りに思考を支配され、増渕の体に、体当たりをして倒れたところを馬乗りになると、手にしたバールで何度も何度も顔を殴るが、ヘルメットが邪魔をしてなかなか致命傷には至らない。


この間に唯は倒れた萬を抱えて車へと走る。


増渕は倒れた時に離したライフルではなく、腰に携えた拳銃を握り、勝治を撃とうとするが、勝治もまたその右手の骨をバールで砕き、ヘルメットを無理やり外す。


「待て!待ってくれ!」


増渕のそんな叫びには反応せず、口腔内へとバールの真っ直ぐな釘抜き部分を突き刺す、増渕の体は痙攣し、血の鮮やかな泡が喉奥から溢れ出し、尿失禁によってスボンにはシミが出来ていた。


骨に当たって止まったバールを、更に勝治は体重を乗せて殴ることで骨を砕き、ようやく増渕は動くことも、喋ることも無くなった。


体力を消耗した勝治だったが、まだ兵が居るこの状況で息を整える暇はなく、増渕のライフルといくつかのマガジンを取り、すぐに薬局の裏口へと走り、ドアノブに手をかけたタイミングで、薬局の中へと4~6人の兵士が突入してくる。


すぐに兵の1人がレジのすぐ向こう、裏口のドアに勝治が居ることに気付くと、弾丸の雨を降らせるが、間一髪のところでドアの向こうへと出ることに成功する。


すぐ目の前の車、古いと思われる小さなピックアップトラックの荷台に、荷物と共に唯、助手席には萬が乗っていることを確認すると、唯にライフルとマガジンを投げ渡し、運転席に座ると、刺さったままだった鍵を回し、エンジンをつけ、そのまま目の前の木でできたバリケードを突き破り、街へと走り出した。


「撃て!!撃て!!」


その間に何発か撃ち込まれたが、唯も応戦してくれた甲斐もあり、ようやく静かな夜の中、走り続けることが出来た。


「もう大丈夫そうです、あたた」


ふと勝治はバックミラーを見ると、どうやら増渕の放った弾丸が唯の左腕を掠めたらしく、血が流れていた、それに萬、唇を切って、目の辺りにはアザが出来ていた。


「高速道路の入口近くのガソリンスタンドに寄ろう、薬を置いてきたはずだ」


「そうですね……でもなんで増渕さんが?明日からのはずですよね?」


勝治は唯と同じ疑問を持っていたが、それよりもマズイ事もあった。


「あぁ、もうあそこには戻れないな……クソ」


朽ちた民家や黒いシミ、自由を謳歌する青々とした植物たち、昔見慣れていたはずの街は、もうどこにもなかった。


「竜也さん、元気にしてるといいですけど」


勝治は更にギアをあげると、クラッチとアクセルを交互に踏んで、ガソリンスタンドへと向かう。


「元気にしてる、きっとな」


車の音に、街中のゾンビたちが、笑みを浮かべ、変速的な引きつった、唸るような意味の無い言葉をあげ初める。


それでも3人は走り続ける、希望があると信じて。

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