8話 お伽噺
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「あら美味しい」
デイブのその一言を聞いてレティシアはホッと胸をなで下ろした。どうやら彼女の口に合ったようだ。デイブの隣に座るアンソニーも心なしか、安堵したような顔をしている。
「苦いって聞いていたから、少し不安だったけど甘くて飲みやすいわ。甘味の中にも少しの苦味も感じられて、ちょうど良いアクセントになっているのね」
「甘いのか。何てぇ飲み物なんだ?」
「カフェオレと言います」
「まーた知らねぇもんが出てきやがった。レティちゃんは博識だねぇ。一体どこでそんな知識を仕入れてくるんだね?」
「んーと、大体は本からですね。後は親から色々と……」
本当はそれに加えて、何故か突然、理解できる不思議な現象もあるのだが、レティシアはそのことに関しては黙っておいた。
「厳しい教育を受けたのかい? ご両親はどこにいるんだい?」
「古都エルトに住んでいるはずです。引っ越していなければ……ですけど」
正確には父親だけである。レティシアの母親は、彼女が小さい頃に既に他界している。
「エルトに住んでいたのね。あそこにはかつて古代人が存在して、すごい繁栄していたそうじゃない? それに神話の舞台にもなっているから良く聞かされたものだわ」
「神話ですか?」
「聞いたことがないかい? 古代神と魔帝のお伽噺さ」
もちろん、レティシアも知っている。小さな頃、両親に良く聞かされたものだ。彼女がそれを思い出して遠い目をしていたのをデイブは神話を知らないと理解したのか、怒涛の勢いで話し始めた。
――かつて、この世には実体がなかった。概念としてドロドロとした無の中を揺蕩っていた古代神が実体化し、この世界を創造した後、下位の神々を生み出した。そして人間やハイエルフと言った万物の霊長とされる生命を誕生させ、大地に楽園を築いた。しかし、幾星霜もの刻が流れた時、突如として闇が生まれた。闇は魔帝なる存在を産み落とすと、光に祝福された大地を浸蝕し始めたと言う。そして魔帝は無謀にも古代神に敵意を向けると、配下として創造した魔神と共に古代神に戦いを挑んだのである。現在、光闇大戦と呼ばれている古き戦いである。その影響で世界には魔物が跋扈し、人間らの脅威となって世界から安寧が失われた。永遠にも近い戦いの中で、古代神は体を八つに引き裂かれて力を大きく失い、眠りにつき、魔帝は天に輝く月に封印された。その後、古代神の加護を失った神々はその神格を落し、かつての力を失った。また、中には人間やハイエルフと交じり亜神となった者も多く現れ、人間たちを率いて魔物を滅ぼす者、亜神同士で争いを始める者など、世界は混迷に満ちたものとなった。ここ、ニーベルンの街があるドライグ王国は竜神ガルムンドーラによって護られたため、ほとんど血が流れることもなく長い平和が続いたと言う――
デイブはまるで吟遊詩人のように神話を詠い上げると、満足したかのようにむふーッと大きく息を吐き出して、少しぬるくなったカフェオレを一気に飲み干した。
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