42話 シャーレ・トゥーリ
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研究室は綺麗に片付いており、整理整頓がなされている。デスクの上に書類の山があるなどと言うこともない。レティシアが抱くイメージとは大違いだ。もちろん、それとは資料と文献に埋もれたドラゴンテイルの工房のことである。
「まぁ、こちらへ来て掛けたまえ」
凛とした高い声に促され、一同は部屋の奥へと進んでいく。
部屋の一番奥の大きなデスクの前には、背の高い女性が一人立っていた。白衣をまとった金髪美人である。右目に片眼鏡をはめており、口元に微かに笑みを浮かべている。
「初めまして。錬金術士で薬師のレティシア・ナミ・フォルトゥーナと申します。本日はお忙しい中、お時間を取って頂きありがとうございます」
「取り敢えず掛けたまえ。ノディオン君から聞いているよ。何か知りたいことがあるとか」
その問いにレティシアは口を開きかけるが、ヴィスタインの方を窺って考え直した。今日ここを訪れたのは彼がミレーユを助けたいと言ったからだ。ここは彼に任せるべきだろう。レティシアとヨシュアがソファーに腰かける中、ヴィスタインは立ったまま、意を決したように口を開いた。
「俺は、ヴィスタイン・クロスナードと言う。今日は鎧病の患者を救いたくて知恵を借りに来た。何か良い方法はないか?」
「ふッ……鎧病の治療薬はまだ存在していないよ。その原因すら明らかになっていない」
「ここにいる彼女が治療薬の生成に成功した。ただその素材が足りないのだ」
淡々と事実を述べるヴィスタインの言葉に、シャーレ・トゥーリは驚きのあまり目を見開くと、デスクにドンッと両手を叩きつけ、興奮気味に問い質した。
「何ッ!? 治療薬を作り出しただって? フォルトゥーナ君。君がか?」
「ええ、実は偶然作り出すことに成功しまして」
「どうやって作り出したのかね?」
「素材には《ヴァンパイアの心臓》が必要だそうだ」
「《ヴァンパイアの心臓》? それは入手が困難そうだ。しかし、よくも薬の素材など分かったものだ。それを鎧病患者に服用させて効果が出たと言う訳だね?」
「はい。その時、身近に鎧病患者がおりましたので、すぐに服用させました。素材に関しては他のものはありますが、心臓だけがない状況です」
「ふむ。しかし、君がどうやって薬を作り出したのか、非常に興味をそそられるね」
「残念ながらそれは企業秘密と言うことで……」
レティシアが詮索無用のニュアンスを込めて言葉を濁すも、彼女の追及は止まらない。
「普通に考えれば、素材に《ヴァンパイアの心臓》などを用いると言う発想など到底浮かぶものではないのだがな……。何か特殊な能力でも持っているのかね?」
「ふふふ……。まさか深淵を知る者とまで言われるシャーレ・トゥーリ先生の口からそのような言葉が出るとは思いませんでしたわ。先生は〝普通に考える〟……つまり、常識に囚われるなんてことはないでしょうに」
「ふッ……こいつはやられたな。これ以上の追及は無理そうだ」
彼女は、そう言って大仰な態度で肩を竦める。
流石に学者と言うだけあって回りくどい物言いをするハイエルフである。レティシアは段々と焦れ始めた。知恵を借りに来ているのはこちらの方なのだ。
一方のヨシュアは我関せずと言った表情をしている。
「ところでヴィスタイン・クロスナード君……君は患者を救いたいと言ったが、それは君が命をかけても助けたい大切な人物だと言うことでいいのかな?」
シャーレ・トゥーリの鋭い視線がヴィスタインを射抜く。
少しの沈黙の後、ヴィスタインは返答した。
「……そうだ」
「ハハッ! ならば答えは簡単じゃないか」
笑うシャーレ・トゥーリと真剣なヴィスタインの視線が空中で絡み合う。
そして、訪れる沈黙。
「……俺はミレーユに救われた。まだ返しきれない程の恩がある」
「そうか。ならば仕方がないな」
シャーレ・トゥーリは冷淡な口調でそう告げた。彼女の目は不気味な程に冷めている。
「何か方法はないんでしょうか?」
「ないな。フォルトゥーナ君がレシピを公開しても、研究が始まるのはこれからだ。すぐに結果がでるものでもないのだよ」
「では先程、簡単だとおっしゃったのはどう言う意味でしょう?」
「そのままの意味だよ。それ以上でもそれ以下でもない」
とてもそうは聞こえない言葉に、それまで黙っていたヨシュアが口を挟んだ。
「あーちょっといいか? 学者様だか何だか知らねぇが、さっきからイチイチ上から目線過ぎやしねぇか?」
「そうか? そう感じたなら謝ろう。すまない」
「それだそれ。その物言いが全くもって気に喰わねぇ! 学者だって名乗るからには、大層な研究をして、すげぇ知識も持ってるんだろ? 頭下げて頼みに来た人間にその態度はないんじゃねぇか?」
「まぁ感じ方は人それぞれだ。それに、大層な知識を持っているのはそちらの彼女もそうなのだろう? 古代人の末裔よ」
「!?」
突然、出てきた言葉にレティシアは絶句する。
「古代人だとッ!?」
いつも泰然としているヨシュアですら驚きの声を上げている。
「フォルトゥーナ君から聞いていないのか? それとも本当に知らないのか? どうなんだね、フォルトゥーナ君」
「……あたしが古代人の末裔だと言うことは誰も知らないことです」
「君は錬金術士だ。古代人はその身に特殊な能力を宿す者が多いと言う。大方、その錬金術とやらもさぞ特殊な方法で行っているのではないのかな? それに君は鎧病治療薬を作り出してすぐにそれを患者に与えた。それは即ち、効果を確信していたと言うことに他ならない」
何も言い返せないレティシアにシャーレ・トゥーリは更なる追い打ちの言葉を掛ける。
「では、手っ取り早い方法を教えようか。レティシア君は古代人の血を引いている上、更にその魂に《災厄の種》と呼ばれている種子を宿している」
しかもそれは、レティシアでさえ最近知ったばかりの内容であった。深淵を知る者と言う二つ名は伊達ではないらしい。
「災厄? 何だって?」
ヨシュアが素っ頓狂な声を上げる。
「《災厄の種》だよ。それを持つ人間は魔人になることができるのさ」
「魔人だとッ!?」
「魔人になって力をつければヴァンパイアを使役することだって容易い。それに魔神に頼んでヴァンパイアを生み出してもらうことだって出来るだろう」
シャーレ・トゥーリは止まらない。
「まぁ、魔人化すれば、君は我々の敵となる。古代神を崇める者は君を殺すだろうがね。私とて、《宿星の種》を宿す者を導き、神人へと深化させる者として魔なる者の存在を許す訳にはいかないしね」
「レティシアにそんなことをさせる気はない」
いつもと変わらぬ口調でヴィスタインが告げる。
「全く……。あれも嫌、これも嫌では何も解決しないと言うのに……」
呆れたように言い放つシャーレ・トゥーリに全員が沈黙する。
レティシアは諦念の境地に至り。
ヨシュアは驚きのあまり。
ヴィスタインはいつもの通り。
シャーレ・トゥーリは、押し黙るレティシアたちに憐れむような視線を浴びせると、吐き捨てるように言った。
「仕方ない。現実的ではないが、一つ教えてあげよう。ニーベルンの北に連なる中央山脈にノーザンロックと言う街がある。その街を治めるのはドラスティーナと呼ばれるヴァンパイアだ。彼女は多くのヴァンパイアを従えている。彼女に頼めば、心臓の一つや二つ、分けてくれるかも知れないな」
その言葉には嘲りの色が混じっていた。
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