40話 接触
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雨は増々強くなっていた。おまけに風も出てきたせいで、暴風雨がドラゴンテイルを襲っている。時刻はもう六つの鐘が鳴った後だ。レティシアが喫茶店を閉めようと片づけをしていると、不意に入口の鈴の音が鳴り響いた。
反射的に「いらっしゃいませ」と言う言葉が出かかるも、レティシアはそれを飲み込むと入口の方を見た。そこには、あの薄い青色の法衣をまとった司教の姿があった。
「すみません。もう閉店時間なんです」
レティシアは確かにドアに吊るしてある看板を「準備中」にしたはずだよね?と考えながらも、入口に佇む男に向かってそう言った。
「お嬢さん、少し大事なお話があるのですが」
「確かスキッドロア司教でしたか。勧誘なら間に合ってますよ?」
「いえいえ、貴方にとって有益なお話のはずです」
その言葉に少し興味を抱いたレティシアは、迷いながらもカウンターへ座るよう促した。
「ありがとうございます」
感謝の言葉を述べて席へ着くスキッドロア。
レティシアが洗い終わって乾かしていたカップを布巾で拭いて手元に置くと、コーヒーの準備を始める。スキッドロアは何も話さず、興味深そうにそれを見ている。
レティシアはコーヒーを抽出してカップに注ぐと、彼の前に置いた。
それを手に取ってカップに口をつけると、彼の表情が劇的に変化した。
「まさかこのような飲み物があろうとは……驚きです」
「それはそれは。お口に合ったようで何よりですわ」
レティシアの軽口に少し口角を上げると、スキッドロアはカップを置いて口を開いた。
「色々と襲撃があったようですが、ご無事なようで何よりです」
「新興宗教の司教さんはそんなことまでご存知なのね」
「ええ、貴方は我々にとっても重要な人物となりましたからね」
「それは光栄なことですわ」
この男はレティシアが命力を行使できることを知っている。油断するつもりはない。
「単刀直入に言いましょう。貴方の力はこれからも古代神の手下共に狙われるでしょう。我々の陣営に入れとは言いません。しかし、貴方の身を護る意味でもこれを受け取って頂きたい」
スキッドロアは、そう言って右手を前に差し出すとレティシアに見せる。その手の平の上には小さな種のようなものが置かれていた。
「それは?」
「これは《破戒の種》と呼ばれるもので、我が神、ダイナクラウンの使徒になることができる神の種子です」
レティシアはそれを見て思い出していた。《宿星の種》と言うものの存在を。あれをその魂に宿す者は神人になれると言う話だったはずだ。
そして《災厄の種》のことも。となれば、これも似たようなものなのだろう。
「あたしに破戒神の使徒になれと?」
「いえ、何も破人になれと言う訳ではありません。これを魂に宿しておけば、わずかながら破力を行使することもできる上、神星力や魔力からの耐性を得ることもできます。ある程度の干渉を受けても何とかなるはずです」
「うーん。……ちょっと信じられないですね」
レティシアは『未知なる記憶』を発動してこの種に関する情報を見てみたかったが、スキッドロアにわざわざ能力を見せるつもりはなかった。
スキッドロアは、あらかじめ話す内容を決めてきたのだろう。レティシアの否定的な言葉に、あっさりと譲歩して再び口を開く。
「分かりました。正直に申しましょう。貴方を狙っているのは、亜神レッドベリルと魔神バークレイです。ヤツらは貴方の特殊能力に目をつけ、それの力を狙っているのです」
「……まったく……どんどん話が大きくなるわね。その特殊能力とやらで、あたしに何をさせるつもりなのかしら? それに仮にその話が本当だったとして、亜神と魔神が手を組むなんてことが有り得るのか疑問だわ」
「目的は我々にもまだ分かっていません。しかし、二つの勢力が手を結んだとなると、我々にとっても脅威になり得ると言うことです」
少なくともレティシアは悪魔に襲われた。となれば魔神に狙われているのは確かなのだろう。ノディオンからも亜神レッドベリルが関わっている可能性が示唆された。スキッドロアがここまで喰い下がる理由は、破戒神ダイナクラウンが、古代神と魔帝の勢力と敵対しているからなのだろう。しかし、敵の敵だからと言って味方だとは限らないのだ。
「ちょっと裏で調べさせてもらってもいいかしら?」
「ええ、構いませんとも」
レティシアは、カウンターの奥から工房へ戻ると、『未知なる記憶』を発動する。
――《破戒の種》
破戒神ダイナクラウンから零れ落ちた涙の結晶。これを宿す者は、破戒神の使徒となる資格を持つ。また破力を行使できるようになり、神星力や魔力への耐性を得ることができる――
最後まで読み進めてみたが、レティシアが見る限り、おかしな記述はない。《神の思い出》のように物騒なことも書かれていないのでレティシアは少し安堵する。
これから何が起こるか分からない。切り札は多い方が良い。それに《破戒の種》からは、以前感じ取ったことのある力と同様の匂いがする。
あれは確か――ヨシュアの持つ大剣、そして……。
そう判断したレティシアは、スキッドロアの提案を受けることに決めた。
喫茶店へと戻ったレティシアは、《破戒の種》をスキッドロアに返す。
「あなたの言ったことは理解したわ。でもこの種をもらっても、あたしはあなたに何もできないし、するつもりはないわ」
「問題ありません。これは私が一方的に持ちかけた取引……と言うより提案です。私は、貴方の身とその力が護られれば、それで構わないのです」
レティシアはスキッドロアの細い目をじっと見つめるが、彼の目が細すぎてその瞳の色を窺い知ることはできない。レティシアはふぅッと溜め息をついて言った。
「それじゃあ、《破戒の種》をあたしに宿してもらおうかしら」
「分かりました」
スキッドロアはそう言うと、《破戒の種》をレティシアに埋め込むために破力を行使した。
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