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深淵の探究者(アビス・ハンター)~稀代の錬金術士は深淵を覗きこむようです~  作者: 波 七海
第三章 ダリルヴァイツの陰謀

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39話 蠢動

是非読んでみてください!

毎日更新中です。

 謎の刺客やら、悪魔デーモンのファンゼルやらの襲撃を何とか凌ぎきり、レティシアに日常が戻ろうとしていた。刺客はフェレール辺境伯へと突き出した。ついでに悪魔による襲撃の件も報告しておいた。レティシアの知らないところで何か重大なことが起きているのではないかと言う予感があったからだ。お陰であれから店内にはヨシュアが、そして店の前にはフェレール辺境伯からの護衛がたむろすることになってしまったが。


 いつもの通り、レティシアは喫茶店を開け、カウンターで『未知なる記憶(アンノウンブック)』を読んでいた。目を通しているのはナイトメア(ファンゼル)から得た素材のページだ。



 ――《黒の夢(ノクス・ソムナ)

ナイトメアの魂の欠片。精神に作用して対象を夢の世界へ引きずり込む。黒の夢に飲み込まれた者は刻の牢獄に幽閉される。それは永遠に渡り――



「悪魔なんだから魔帝まてい由来の力よね……。精神……神にも有効なのかしら……?」


 亜神や魔神など、神々の本体は精神体だと言われており、それぞれの根源たる力を行使してこの世界に降臨し、肉体を維持していると言うのが定説だ。

レティシアがファンゼルから得た他の素材を確認しようとページをめくっていると、不意に鈴の音が鳴った。レティシアとヨシュア、ニャルの視線がドアの方へと向けられる。


「ノディオン様!?」


 いつも通りの笑みを顔に貼り付かせて入ってきたのは、ニーベルンの領主の嫡男、〝フェレールの若獅子〟ことノディオンであった。


「やぁ、ちょっと報告があってね」

「こんなところに護衛も付けずに大丈夫なんですか?」

「ああ、私は強いからね」


 確かに強いので何も言えないレティシアであった。彼の神星力はグランデリアを倒した時に垣間見たが、かなりのものだ。まだまだ隠している力も多いことだろう。また、その剣技も卓越したものを感じた。手負いとは言え、ヴァンパイアを瞬殺したのである。その実力や推して知るべしであった。


「ん? そんなに強ぇのかい? だったら俺と……」

「それで報告と言うのは?」


「刺客の件ですよ」

「無視かよ」


 レティシアとノディオンに無視されてブータレるヨシュア。


「話が進まないでしょ? それにあなた、相手を見て喧嘩売りなさいな」

「わぁーったよ……」


 二人のやり取りを見て笑みを深くしたノディオンが口を開く。


「あの刺客の件なんですが、どうやら背後にいるのはダリルヴァイツ帝國のようなのです」

「ええ? あの帝國ですか!?」


「そう。あの帝國です」


 レティシアは、スキッドロアが言っていたことを思い出す。

 ダリルヴァイツ帝國は、ドライグ王国の南西に位置する国で亜神レッドベリルを守護神として戴く好戦的な国家だ。


 レティシアはノディオンの前にコーヒーを置いた。


「しかし、解せない部分もあります。ダリルヴァイツ帝國が絡んでいるのなら、まず間違いなく亜神のレッドベリルが関わっているでしょう。しかし、レティシアさんを襲ったと言う悪魔デーモン……ナイトメアのファンゼルですが、ヤツを創造したのは恐らく魔神デヴィル


「それのどこが変なんだ?」


 ヨシュアの頭の上に〝?〟が浮かんでいる。


「レッドベリルは古代神こだいしんの部下で、魔神デヴィル魔帝まていの部下ってこと」

「ん?」


 ヨシュアはまだ理解できないようだ。


古代神こだいしんロギアジークと魔帝まていマーテルディアは敵対関係にあります。それなのに、亜神あしんレッドベリルと魔神デヴィルが手を組むようなことがあるでしょうか?」


 急に雨が降り出した。ドラゴンテイルの屋根を叩く音が強くなる。雨はすぐに豪雨へと変わった。護衛の騎士たちは慌てて喫茶店の軒先に避難している。


 外では遠雷が轟いている。


「荒れそうね……」


 レティシアは、カウンター内から出ると入口の方へと向かう。


「ん? 何をするんだ?」

「え? ああ、護衛の人たちに中に入ってもらおうかと思って」


 ヨシュアの問いに振り返って答えるレティシア。

 その時、入口の鈴の音が鳴り響き、雨が屋根に当たる音を一瞬だけかき消した。

 その音に反射的に入口の方に再び向き直ると、そこにはびしょ濡れになった一人の男が静かに佇んでいた。


「あら……。ヴィスタインじゃない。いらっ……」


 ヴィスタインはカツカツと音を立ててレティシアの方へ歩み寄ると、その目を真っ向から見据え、言葉を遮った。


「レティシアを稀代の錬金術士、そして薬師だと見込んで頼みがある」

「どしたの?」


「頼む。ミレーユを助けてくれ」


 取り敢えず、レティシアは、頭からつま先まで全身ずぶ濡れになっているヴィスタインをカウンターに座らせ、奥から持って来たタオルを手渡す。


「すまない」


 自分の顔をタオルで拭きながらヴィスタインはボソリと言った。表情はない。

 しかし、レティシアには、彼からいつもの無表情とは違う何かを感じ取っていた。

 ヴィスタインは相棒のミレーユを助けて欲しいと言った。彼女に何か重大な出来ことが起こったのだと察したレティシアは、いつもより時間をかけて準備をし、丁寧に抽出したコーヒーをカップに注ぎ淹れると、ゆっくりとヴィスタインの前に置いた。


「頂こう」


 いつもの口調でそう言うとゆっくりとカップに口をつける。しかし、レティシアには心なしか、その手が震えているように感じられた。


 店内を沈黙が支配する。


 幸い、ヨシュアも空気を読んだのか、いつもの軽口を叩くようなことはしない。また、ノディオンも無言を貫いている。レティシアは敢えて急かすような真似はしなかった。そうすることが彼に寄り添うことになるのではないかと思ったから。



 沈黙はヴィスタインによって破られた。ようやく少し落ち着いたのだろう。


「ミレーユが鎧病がいびょうにかかった」

鎧病がいびょう……」


 また鎧病かとレティシアは頭を抱えたくなるのを何とか抑える。グランデリアを倒してから2週間は経過していることを考えると、一定の潜伏期間があるのかも知れない。


「治療法はないと聞いた。だが諦めきれずに街で聞き込みをした。そこである噂を聞いた。奇跡のような力で鎧病がいびょうを治してみせた者がいる、と」


 レティシアは別に奇跡で鎧病がいびょうを治した訳ではない。恐らく『未知なる記憶(アンノウンブック)』の能力を見た者と、ヨシュアの快癒を見聞きした者の話が混じったのだろう。


「確かにあたしは治療薬を作り出して鎧病がいびょう患者を治したわ。でもね……素材がないのよ」


「素材……?」

「ええ、必要な素材の内、どうしても手に入らないものが一つだけあるの」


「……」


 ヴィスタインの表情は変わらない。レティシアの言葉を待っているのだ。


「それは……《ヴァンパイアの心臓》よ」

「!?」


 いつもの無表情が劇的に変化する。目を大きく見開いて固まっているヴィスタインを見て、レティシアは少し安心した。そんな表情もできるのね、と。



 再び、沈黙が訪れる。



 しかし、今回の沈黙は少し雰囲気が違っていた。ヴィスタインが何やら難しい顔をしているのだ。レティシアは、彼が何か考えているのだろうと思い、カウンター内の椅子に腰かけると、窓の外を眺めた。そこからは未だ降りしきる横殴りの雨が木々の葉に打ちつけられているのが見える。レティシアはヴィスタインの言葉を待ちつつも、何か方法はないかと思案していた。

 そこへ黙っていたノディオンが口を開いた。


「この街には、優秀な学者が何人かいる。その中でも深淵を知る者の一人とまで言われているハイエルフが存在する。名前はシャーレ・トゥーリ。ニーベルン大学にいるから行ってみるといい」


「ハイエルフか……」


 ヴィスタインの表情が少し曇る。


「へぇ。知らなかったですね……」

「古代神や魔帝にも詳しい。今日の帰りに大学に寄って話を通しておくよ。念のため紹介状も書いておこう。便箋はあるかい?」


「今、取って来ますね」


 レティシアはカウンターの奥へと引っ込むと、工房内の便箋がしまってある棚を漁る。まさかノディオンからそんな情報が出てくるとは驚きだ。


「あったあった」


 レティシアは、必要な物を持って店に戻ると、ノディオンにペンと便箋を手渡した。


「あたしも是非会ってみたいものだわ。ヴィスタイン、明日一緒に行きましょう」


 レティシアが努めて明るい口調でそう言うと、ヴィスタインも希望を見出したのか、力強く頷いたのであった。

お読み頂きありがとうございます!

今後も頑張って参りますのでブックマークや評価★5をよろしくお願いします。

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