35話 雷光の杖
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この日はレティシアにとって喜怒哀楽の変化に富んだ一日となった。
理由は単純だ。スレイアに依頼していた杖ができあがったのである。
彼女はわざわざドラゴンテイルに足を運んでレティシアに直接、杖を手渡した。スレイアが言うには、今まで製作した神具や魔具の中でも一位、二位を争う程の仕上がりらしい。
素材の《雷光石》の中から不純物を取り除き、結晶化したものを丸い水晶のような形にし、ンジャ・タイの木から削り出した杖の先端に取り付けたものであった。更には、杖全体がオリハルコンでコーティングされている。クロスさせたリングの中で《雷光石》の結晶が浮遊している感じである。それを見たダタイによれば、土星のリングを二つにしてクロスさせたような形だと言うことであった。もちろん、レティシアには理解できなかったが。
ンジャ・タイの木は、ザイオン聖教国に存在するロギアノイド遺跡の神星力が降り注ぐ場所に自然と生えてくるとされる神聖樹のことである。神星力と相性が良く、周囲の神星力を取り込み、蓄積する性質を持っていると言う。
オリハルコンは、硬度は高いが加工しやすく、どの力とも高い親和性を持つ。世界中の古代人の遺跡で発見されているが、天然の鉱山などは未だ発見されていない謎の多い金属である。つまりこの杖は、世界に存在する様々な力と相性が良く、その力を増幅し、強化してくれるもので、更には殴っても凶悪なまでの破壊力を発揮すると言う優れものなのである。
この『雷光の杖』を渡されて説明を聞いた時、レティシアの顔が真っ青になったのは言うまでもない。これだけの貴重な素材が惜しみなく使われているのだ。価格を付けようとしても適正な値段を付けられる者がどれだけいるだろうか。
当然、注文と違うとレティシアが抗議したのだが、スレイアは作っている内に興が乗ったと悪びれる様子もなく言い放った。彼女は出世払いで良いと言ってくれたが、レティシアは薬屋と喫茶店を営む、自称錬金術士に過ぎない。これ以上、どう出世しろと言うのかと、スレイアを小一時間程問い詰めてしまった。しかし、作ってしまったものは仕方がない。
切り替えの早いレティシアは、「我、金の亡者にならん」と高らかに宣言し、早速、ニーベルンの外に広がる平原で雷光の杖を試用しに向かったのであった。結果はレティシアの想像以上であった。試しに放った命術は普段とは比べものにならない程の威力を発揮し、平原に大きなクレーターを作り出した。更に、わざわざ力を練って術を使用しなくても雷光の力を放出することができ、ニーベルンの空を荒れ狂わせた。
と言う訳で、レティシアはどこか吹っ切れたような表情でドラゴンテイルに戻ると、それからは終始、にこやかな笑みを浮かべていた。
そして夜になり、レティシアは、コーヒーを飲みながら雷光の杖に理力や魔力などを流し込んで力の感覚や加減の具合を掴む練習をしていた。
「あんなことになるのならドラゴンテイルの異空間で術の試し撃ちをするべきだったわね……」
レティシアはクレーターと化した大地の光景を思い出していた。
「それにしても、こんなオーバースペックな代物を使う機会なんてくるのかしらねぇ……」
自問するレティシアに、ファルが適格なフォローを入れる。
「またヴァンパイアと戦う機会があるかも知れないしー。それに新素材を得るためには強力な武器があって損はないと思うよー」
「そ、そうよねッ! これからガンガン売れるもの……もとい、役立つものを錬金していかなくちゃならないのだから。そうよッ! これは先行投資だわッ!」
レティシアがようやく精神の着地点を見出したその時、ファルが真剣な声色で告げた。
「マスター。誰か来るねー。五人くらいかなー」
その言葉にレティシアも真面目な表情を作ると、立ち上がり気配を探り始める。気配はファルの言う通り五人。殺気などは感じられない。
「来たよー!」
ファルがそう言った瞬間、窓のガラスが割れて外の空気が入り込んだ。
【火炎直球】
声が響くと同時に人の頭程の大きさの火の玉が室内に放り込まれる。
それが着弾する寸前にファルの口から闇のブレスが吐き出され、火の玉を消滅させる。ファルは今、小竜の形態を取っている。レティシアは工房内の大事な文献などが燃えなかったことに安堵しつつ、割れた窓から躍り出ると、雷光の杖の力を放出した。
ドラゴンテイルの菜園で雷の力が荒れ狂う。
放電が終わると、ファルとニャルも外に飛び出してきた。
レティシアが周囲を探るも、敵に倒れた者はいないようだ。
「くッ! 力の加減を間違えた!?」
そこへニャルの精霊術が発動する。
【水の精霊よ。その姿を変え、精霊神の敵を氷結の中へ閉じ込めんなのにゃ……氷結固塊】
ニャルが地面に手をつくと、そこから粘性のある液体が地を伝わっていく。そして黒装束を着た一人に触れると、敵を氷の中へと閉じ込めた。
ニャルが仕掛けると同時にファルも闇の波動を発した。
【ファッ!】
見えない波動を喰らった一人がその場に崩れ落ちる。
襲撃者に動揺が走った。敵の動きが止まったところで、レティシアが吠える。
「家に放火しようなんて、ふざけたことしてくれたじゃないッ!」
しかし、残りの三人はレティシアから少し距離を取ったまま、何も答えない。
「なぁに? まさかヴァンパイアの仇討ちって訳じゃないわよね?」
レティシアはハッタリをかますが、それにも反応はない。心当たりは鎧病の件だけだ。まさかカルナック村の件を恨んだ盗賊の残党がこんなことをするとも思えない。
「まぁいいわ……全員捕まえて突き出してやるんだからッ!」
その声にファルとニャルが動く。
焦れたレティシアは再び雷光の杖の力を解放したのだ。もちろん先程よりも出力は強めだ。空気は震え、バチバチバチと放電の音が鳴り響く。
先程の雷を耐えきった自信からか、二人の黒装束がかわそうともせず、レティシアに向かってくる。しかし、出力の上がった雷には耐えきれなかったようだ。バタバタとその場に倒れ込む二人。残りの一人は剣を放り投げて雷を回避したようだ。流石に一人ではどうにもならないと思ったのか、踵を返して逃げに掛かる。
悪くない判断だが……甘い。
ファルとニャルが既に黒装束の背後に回っていた。ニャルの猫パンチが敵の顔面を捉える。倒れこそしなかったが怯んだ敵に、今度はファルの放った闇の礫が肉迫する。それを左腕にまともに喰らって、よろめいたところにレティシアが、トドメとばかりに雷光の杖で思いっきりぶん殴った。背中を強打した最後の一人は倒れ込むとピクリとも動かなくなった。レティシアがファルに視線を向けると、彼女は首を横に振る。もう襲撃者はいないようだ。
「よし。ニャルはこいつらを回復させて。少しだけね。ファルはあたしと一緒に全員、ふん縛るわよッ!」
その後、レティシアは、全員の手足を縛り上げ、猿ぐつわを噛ませて庭に転がしておいた。明朝にでも領主へ突き出すのだ。そして念のため、ファルに見張りを頼むと、レティシアはニャルと共に眠りについたのであった。
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