31話 新たな鎧病患者
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「うん。上手に淹れられるようになったわね。これならニャルにも任せられそうね」
「ほんと? やたー!!」
無邪気にはしゃぐニャルを見て、カウンターのアンソニーもにこやかな表情をしている。まるで孫を見守るお爺ちゃんのような目だ。だがそれも仕方がないと断言できる。それだけニャルの可愛さは反則的なのである。レティシアがニャルの可愛さを再認識していると、お店の鈴の音が鳴った。レティシアが入口の方に目をやると、そこには見知った顔が一つ。
「いらっしゃい。マクガフ先生」
「ああ、こんにちは。レティシアさん」
「今日は休診日なのですか?」
「いや、実は先程、一人の鎧病患者を診てきたんだが、彼がレティシアさんの名前を口にしたものだから知り合いかと思ってね」
「へ? あたしのですか?」
「ああ、ホテルシャトー・ニーベルン支店に泊まっているヨシュア・アグスティと言う男だが、知っているかね?」
「ヨシュアが? 鎧病に?」
《鎧毒》をバラ撒いていたグランデリアは既に倒した。となれば、発症までに時間が掛かるタイプの病気なのか、あるいは他にもヴァンパイアがいるのかも知れない。
「やはり知り合いか……。かなり重篤な状態だったのでトーメル薬を使ったんだが、あまり症状に改善が見られなくてね」
薬の効果に個人差があるように、当然、トーメル薬もその傾向が見られる。
効果が薄いならば、待っているのは当然、苦痛に苛まれた末の死である。レティシアは全身をフルプレートのように鎧化させて亡くなった人を何人も見てきた。
「ニーベルンには鎧病患者が増える一方だ。必然的にトーメル薬の流通量も少なくなっている。ニーベルンの医師会も探究者ギルドに素材の調達依頼をかけているのだが……」
何も言わないレティシアに、マクガフは現状を説明していくが、その言葉は苦々しい。
レティシアは考えていた。鎧病の薬のレシピが判明したのは喜ばしいことだが、やはりネックとなるのは《ヴァンパイアの心臓》と《鎧毒》の入手方法だ。《鎧毒》の方はグランデリアから得たものを解析に回すだけの量はあるし、薬の錬金に必要な量は微々たるものなのだが、《ヴァンパイアの心臓》の方はどうにもならない。世界にどれ程のヴァンパイアが存在するのかは分からないが、好んで人間の前に姿を現す個体などいるはずもなく、ましてや自分の正体を明かす者の存在など皆無だろう。
ヨシュアは適当なところはあるが、優しい人間だ。そして何よりレティシアの命の恩人である。《ヴァンパイアの心臓》を一つ持っていたところで鎧病患者全てを救える訳ではない。それならば、薬を誰に使用するかはレティシアが決めても誰からも文句を付けられる謂れなどないはずである。しかし、彼女は自分が神の如く、命の選別をしてしまって良いものかどうしても決められないでいた。
短くない時間が流れる。
その間、マクガフはじっとレティシアの言葉を待っていた。
俯いていたレティシアが顔を上げて、キッとマクガフを見据える。
「マクガフ先生、宿に……ヨシュアのところへ案内して頂けますか?」
マクガフは元よりそのつもりだったようだ。静かに頷くと店の外へ向かった。レティシアは留守番をニャルに頼むと、彼の後を追ったのだった。
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