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深淵の探究者(アビス・ハンター)~稀代の錬金術士は深淵を覗きこむようです~  作者: 波 七海
第二章 鎧病の謎

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28話 襲撃

是非読んでみてください!

毎日更新中です。

 レティシアはドラゴンテイルに戻ると、手早くコーヒーを入れて工房の定位置へと陣取った。診察にはもっと時間がかかると考えていたので、薬屋も喫茶店も閉めている。邪魔する者はいない。


「『未知なる記憶(アンノウンブック)』ッ!」


 いつもの通り虚空から本が出現すると、レティシアの要望に応えてページがペラペラと高速でめくられていく。そして、自動で該当するページが開かれた。

 そのページを覗き込んだレティシアの目に驚愕の内容が飛び込んできた。


「ッ!?」


 言葉を失うレティシア。そこに書かれていたのは。



 ――《鎧毒がいどく



 鎧病がいびょうを発症する原因となる毒の名前であった。レティシアの脳裏に様々な考えが過る。


 エミリアは《鎧毒がいどく》に犯されていた?

 何故、未だ発症していない?

 あの環境によって症状が抑えられている?

 

 レティシアが続きを読み進めていくと、いくつかのことが判明した。

鎧毒がいどく》は何かのアイテムの素材となり得るらしいこと。毒とは言っても所謂、病原菌――ウィルスが鎧病がいびょうの感染原因となっていることである。


 『未知なる記憶(アンノウンブック)』を解読する中でウィルスと言う言葉は度々出てくる。レティシアの知る限り、今の医術界では、恐らくまだ発見されていない。レティシアとしても何とかして〝ウィルス〟が病気の原因となり得ることを周知しようと、マクガフを始め懇意にしている医者たちへ提言を行っているが、まだまだ医術界にレティシアの言葉を信じる者は少ないのである。感染症の病気が流行すると、人は鬼が取りついたと言う表現を用いるのが一般的なのだ。


「感染症なら、もっと鎧病がいびょうが爆発的に蔓延しているはず……」


 レティシアは解せないと言った表情を作ると、頭をひねって押し寄せる思考の波に身を委ねる。以前、鎧病がいびょうにかかった子供の前で『未知なる記憶(アンノウンブック)』を発動した時は、《鎧毒がいどく》は感知されなかった。しかし、今回は鎧病がいびょうではない人物から《鎧毒がいどく》が感知された。これは何故なのか。


「ウィルスを保有しても発症しない人もいるのかな?」


 その呟きに反応するかのように『未知なる記憶(アンノウンブック)』が再び、動き始めた。自動的にページがめくられていく。どうやら、エミリアの部屋で感知された素材は《鎧毒がいどく》だけではなかったようである。そして、とあるページで挙動が止まった。目的のページが開かれたようだ。その項目を目にしたレティシアに衝撃が走る。


「心臓!?」


 思わず、驚きの声が口から飛び出した。レティシアは信じられないものを見たと言う顔で、再び、そのページを凝視した。


「《ヴァンパイアの心臓》……? エミリアはヴァンパイアだった? それとも侍女が?」


 『未知なる記憶(アンノウンブック)』が素材を感知する範囲は狭く、それを中心に半径一メートル程度である。そのため、診察時の状況を考えると、マクガフを除けば、素材の持ち主はエミリアか従僕しか有り得ない。レティシアの頭の中で仮説が組み立てられていく。


 エミリアがヴァンパイアであると仮定する。彼女は鎧病がいびょうの病原菌を保有している。初めて鎧病がいびょう患者が出たのは一年程前で、エミリアが病に臥せったのも一年前だ。となれば、考えられるのは一つ。エミリアは大量の《鎧毒がいどく》を体内に保有しており、鎧病がいびょうはエミリアによって拡散されている。そう言うことだ。信じ難いが、『未知なる記憶(アンノウンブック)』が誤った挙動を起こすなど考えづらい。それに、一部のヴァンパイアは太陽光を嫌う。それがダメージに成り得るからだ。


 更に先を読み進めるレティシア。彼女を驚愕させたのはそれだけではなかった。


「《ダリル草》、《生命の水》、《オデュセイアの神核しんかく》、《神聖樹しんせいじゅ新芽しんめ》、《鎧毒がいどく》、そして《ヴァンパイアの心臓》……これが、これが鎧病がいびょうの治療薬……」


 《ヴァンパイアの心臓》と《鎧毒がいどく》以外の素材は既に『未知なる記憶(アンノウンブック)』の中に収納されていた。

 そこへ、エミリアの近くで『未知なる記憶(アンノウンブック)』が発動したため、《ヴァンパイアの心臓》と《鎧毒がいどく》が感知されて鎧病がいびょう治療薬の項目が新たに追加されたのである。


「でも薬の素材が《ヴァンパイアの心臓》だなんて、そう簡単に入手できるものじゃないわね。どうしろって言うのよ……」


 衝撃の事実が明らかになってからレティシアは、何も手に着かなかった。結局、何も出来ずに夜を迎えることとなったレティシアは、椅子に腰かけ、両手で後頭部を支えながらぼんやりと頭の中を整理する。


「とにかく、明日の朝一で報告が必要ね」


 まずは、エミリアがヴァンパイアであると言う事実――もちろんまだ仮定の段階だが――をフェレール辺境伯に伝えねばならない。それを考えると、気が重くなる。

 本来ならばすぐにでも辺境伯の邸宅へ行くべきなのだろうが、レティシアにはとある予感があった。もし予想が当たっているならば――


「さてと、今夜は早く寝るとしますか」


 こんな時は寝るに限る。これがレティシアの精神安定の秘訣の一つである。ちなみに他にはコーヒーを飲む。ド派手な魔術まじゅつ命術めいじゅつをぶっ放すなどがある。


未知なる記憶(アンノウンブック)』を消すと、レティシアは寝室へと向かった。

 そこへ精霊獣のファルから声がかかる。


「マスター。何か来るみたいだよー」


 彼女は既にいつもの小竜ドラコから人化して周囲を警戒しているようだ。


「何か?」


 いつもと違う真剣モードのファルにレティシアは思わずニヤリと笑う。ファルがそのモードになるのは戦闘の時だけなのだ。レティシアが手元に置いてあった力の杖を手に取った瞬間、大きな音と共に工房の窓が壊れて、何かが飛び込んできた。


 ファルが、それとレティシアの間に割って入ると、伸ばした鉤爪で攻撃を仕掛ける。


「くッ! 精霊獣ですってッ!?」


 ファルの攻撃がわずかに当たったのか、それは、慌てて身をかわすと、ファルから距離を取る。目の前に表れたのは、長い銀髪をなびかせ、漆黒の衣服に身を包んだ女性であった。

 瞳の色は鮮血のような赤。白い肌はその衣服と相まってより真っ白に見えた。

レティシアはこのタイミングで襲撃があるなら、あの人物だろうと予想はしていた。念のため『未知なる記憶(アンノウンブック)』を発動する。この能力は新素材を発見した場合だけでなく、既知の素材を前にしても、レティシアの意思で該当するページが参照することができるのだ。


 『未知なる記憶(アンノウンブック)』が光り輝き、あのページが開かれた。

 そう。《ヴァンパイアの心臓》のページである。

 取り敢えず、レティシアはハッタリをカマした。先制攻撃である。


「こんな夜中に物騒ね。一体何の御用かしら? エミリアさん」

「何を言っているのかしら? わたくしの名はグランデリア」


「バレバレだって言ってるのよ。この、あばずれヴァンパイア」


 レティシアの言葉に真っ先に反応したのはグランデリアではなく、ファルであった。レティシアに向けるその眼差しから察するに、何か言いたげであることは一目瞭然である。要は、汚い言葉使いを諌めているのだ。しかし、今はそんなことを気にしている場合ではない。レティシアは心の中で謝りつつもすぐにグランデリアに視線を戻す。


「あらあら。つれないお言葉ね。わたくしは夜な夜な、蜜を集めて回る闇の蝶……今宵はあなたの蜜を楽しみに来て差し上げてよ?」

「あらそう? あたしがあげられるものなんて何もないわよ? ま、でも折角来たのをただ追い返すのも何だし? その心臓、置いてってくれない?」


 レティシアの挑発の言葉に、グランデリアの魔力が膨れ上がった。

お読み頂きありがとうございます!

今後も頑張って参りますのでブックマークや評価★5をよろしくお願いします。

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