27話 診察
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レティシアはマクガフと共に、フェレール辺境伯の邸宅へと足を運んでいた。
邸宅と言うのは語弊があるかも知れない。周囲は堀が張り巡らされており、敵の侵入を拒む高い城壁がそびえ立っている。その中に堅牢な城が築かれているのだから。
レティシアたちが応接の間に案内される途中に、何度かレティシアの知らない術式が設置されているのを彼女は感じ取っていた。まさに鉄壁の防御体制を構築しているのだろう。
一見、平和そうなニーベルンであるが、隣国のダリルヴァイツ帝國の脅威に晒されている土地なのだ。実際、レティシアがこの街に来る前には何度も小競り合いが起こっていた。
レティシアは装飾の少ない質素な感じのソファーに座り、『未知なる記憶』を具現化して手元に持ったまま室内の様子を窺っていた。目の前には年季の入った雰囲気のあるテーブルが置かれ、壁には絵画が掛けられている。豪華過ぎることもなく、嫌味のない部屋だとレティシアは思った。一方のマクガフは緊張しているようで落ち着きがない。貴族に会うのに緊張するような人ではないので、恐らくご令嬢の診察が上手くいくかどうかが心配なのだろう。やがて、レティシアが出された紅茶を飲み終えた頃、警護の兵士を伴った精悍な顔付きの男性が部屋に入って来た。レティシアとマクガフが慌てて立ちあがる。
その男性は年の頃は五十代と言ったところだが、服の上からでも引き締まった肉体が窺え、屈強そうな感じを受ける。また、口の周りと顎に立派な髭を蓄えている。レティシアは、この男性と面識があった。ニーベルンの領主、デリオン・ド・フェレールである。領主が直々に姿を見せたのが意外だったのか、マクガフは驚きの表情を作っている。
「待たせたかね? すまぬな」
「いえ、閣下」
「まぁ、掛けたまえ。マクガフ殿、此度は娘のためにご足労頂き、感謝致す。それにしてもフォルトゥーナ殿まで一緒とは思わなかったぞ」
「製薬ギルドの件では寛大なご処置を賜り感謝の言葉もございません」
「そう硬くならんでも良い。二人の名はニーベルンに轟いている。そのような二人に診察してもらえるなど、こんなに心強いことはない」
フェレール辺境伯の賞賛の言葉に礼を言うと、マクガフは早速、本題に入った。
「ありがとうございます。してエミリア様の症状と言うのは?」
「それが一年程前から、急に動けなくなってしまったのだ。日中は特にひどくほとんどベッドに入ったきりだ。幸い、口が利けんと言う訳ではないのでな。後は本人から聞いてくれ」
フェレール辺境伯に案内され、エミリアの部屋へと到着する。彼がドアをノックすると、中から反応があった。
「お前たちはここで待て」
警護の兵士にそう申し付けると、彼は部屋へと入っていく。それに従うようにレティシアたちも後に続いた。エミリアの部屋には三人の人物がいた。
一人は部屋の主だろう、エミリアである。彼女は天蓋付きのベッドに入り、上半身を起こしている。二人目は侍女か何かだろう、年配の女性がエミリアに甲斐甲斐しく寄り添っている。もう一人は若い男性だ。エミリアたちから離れて様子を窺っている。部屋が暗いのではっきりとは見えないが、その精悍な顔立ちにはフェレール辺境伯の面影が色濃く表れている。
「ノディオン、お前も来ていたのか」
「はい。父上。今日は新しい先生がお見えになるとのことでしたので心配になって思わず駆け付けてしまいました」
「相変わらず妹想いなヤツだ。まぁいい。マクガフ殿、フォルトゥーナ殿、どうかよろしくお願い致す」
レティシアは室内が暗いのが気になった。今はもう外も薄暗くなっているが、窓には分厚そうな生地のカーテンが引かれており、昼間でも日光が入り込む余地はなさそうだ。一応、エミリアの近くにランタンのようなものが置かれており、ぼんやりと狭い範囲を照らしている。レティシアが部屋の様子に違和感を抱く中、マクガフはベッドへと近づくと、エミリアに挨拶をして問診を始めた。問い掛けに応じるエミリアの声は小さい。何やらぼそぼそと話すのでレティシアもマクガフの傍へと歩み寄る。近づくにつれて、灯りに照らされたエミリアの様子が鮮明になってくる。
――美しい
レティシアがまず思ったのはそれだった。肌は病的なまでに白く、その顔は誰が見ても美人だと評するだろう。少し痩せているが、一年も臥せっているのだから仕方がないだろう。ただ病人特有の臭いがしない点がレティシアの心に引っかかった。
レティシアが椅子に腰かけて問診を続けるマクガフの隣まで来た時、予期しないことが起こった。具現化して左腕に抱えていた『未知なる記憶』が眩く光輝いたのだ。暗い室内で突然の発光である。皆、一様に驚いたようだ。一番驚いたのはレティシア自身だったかも知れない。
「何だ? 今の光は何なのだ?」
フェレール辺境伯が当然の疑問を口にする。
「これは医術書でして、あらかじめ仕込んでいた術式が作動したようです」
少し焦りながらも適当な言い訳をするが、かなり苦しい。レティシアが術を扱えることを知っているフェレール辺境伯もどこか怪訝な表情を隠せないでいる。
レティシアとしてもすぐに『未知なる記憶』を確認したいところだが、この場で中身を見る訳にもいかない。下手をして手を離せば本が宙に浮かび、勝手にページが開かれていく現象を見せつけることになってしまう。それを見て奇怪に思われるのは避けたいところである。
辺境伯が口を開きかけたその時、部屋にエミリアの大声が響いた。
「術式を仕込むなんてわたくしに何をするつもりッ!? 出て行ってちょうだいッ!」
突然のことに固まる一同。
ベッドの上で暴れ出したエミリアを何とかなだめようとするノディオンや侍女だったが、彼女がヒステリックに喚き続けたため、止む無く部屋から出ることとなってしまった。マクガフは十分な聞き取りができなかったのか、残念そうな表情をしている。
「娘が急にすまぬな。昔はあんな風にはならん子であったのだが……」
「いえ、あたしの方こそ、余計な刺激を与えてしまったようで申し訳なく存じます」
謝るレティシアに続いてマクガフが声を上げた。その声は真剣だ。
「フェレール閣下ッ! もう一度診察させて頂きたいのですが」
「そうだな。時間が経てば、娘も落ち着くだろう。その時はまたお願いしたい」
「あ、ありがとうございます!」
責任感の強いマクガフとしては、どうしても再診したかったようで、その声には歓喜と安堵の色が混じっていた。邸宅から出た二人は、明日にでもエミリアを前にして起こった『未知なる記憶』の反応について話し合おうと言って別れたのであった。
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