24話 ダタイと言う男
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カルナック村での激闘から五日。
レティシアは、ニーベルンへと戻ってきていた。カルナック村を襲った盗賊たちは全員、討伐、もしくは捕縛したものの、捕縛した盗賊から聞き出した情報では、まだアジトに残党がいることが判明したらしい。討伐隊の新リーダーは迅速果断な性格らしく、直ちにアジトに向かったようだ。レティシアも関わってしまった以上、最後まで付き合うつもりだったのだが、断られてしまった。聞くと、正式な依頼を受けていない者の手は借りないと言うことであった。盗賊の長であった狼男を倒したり、怪我を負った探究者や村人を治療したりと、散々手を貸したのだが、レティシアの意見は頑として受け入れられなかった。新リーダーは少々、融通の利かないタイプの人間だったらしい。レティシアも別に報酬目当てで手伝った訳ではないので少しばかり複雑な心境になった。
被害を受けた村人たちは、恐らく他の街へ移住することになるだろう。村の男衆がほぼ殺されてしまったのだ。あのまま村を維持するのは難しいだろう。カルナック村の付近は、ニーベルンの領主の領土である。後々のケアは彼が抜かりなく行うことだろう。
入手した《神の思い出》については、神人のレガルドに譲渡した。実際には《星々の加護》との交換なのだが、細かいことはいいだろう。錬金術士の立場で考えると、《神の思い出》は、渡さずに持っていた方が良かったのかも知れない。しかし、狼男を倒したのはレティシアだけの力ではないので、入手したものをレティシアが独占するのは、やはり違う気がしたのだ。
帰宅したレティシアは、疲れもあったが翌日にはドラゴンテイルを開いた。とは言っても、不在の間、ニャルが薬屋の店番をしてくれていたので結構、薬が売れたようである。イレギュラーなことはあったものの、これからまた代わり映えのしない日常が繰り返し訪れることだろう。となれば、集中するべきは鎧病の治療薬のことだけである。
そんな訳でレティシアは、早速、掘り出し物がないかと市場に足を運んでいた。
『未知なる記憶』を具現化して小脇に抱え込み、ニャルと共に人ごみの中、並んでいる売り物を物色していく。レティシアとしては能力が知られる恐れがあるので『未知なる記憶』を持ち歩くのは避けたいところなのだが、鎧病のことを考えると、最早、形振り構ってなどいられないと判断したのだ。むしろ貴重な素材を逃してしまう方が痛い。
流石は市場だけあって、レティシアが入手したことのない素材はたくさんあった。『未知なる記憶』が反応する度にページをチェックするが、手がかりになるような素材は見つからない。朝から回って既に陽も傾きかけてきた頃、そろそろ帰ろうかと、レティシアとニャルが話をしていると、横手から声がかかった。
「そこのお姉さん、いいものがあるよッ! 見てってくれないかい?」
レティシアが声のした方へ顔を向けると、同時に『未知なる記憶』の方も反応を示した。レティシアに声をかけた男性の前にはいくつかの石が置かれている。
すぐに光り輝いたページを確認しようとするレティシアに男が更に声をかけてきた。
「お姉さん、あなた、異世界人だろ?」
「りんかー? なんですか? それは」
「別に隠さなくたっていい。あなたからは異世界人と同じ力を感じる」
「本当に意味が分からないんですけど?」
「ハハッ! そう警戒しないでおくれよ。私の名はダタイ・ブレイクン。気が付いたらこの世界にいたんだ。言うなれば、転移異世界人ってところかな」
聞きなれない言葉を連呼するダタイに、レティシアは困惑を隠せない。
「まぁ、それはいいさ。私が売っているのはコレだ。結構な貴重品なんだよ?」
ダタイは置いてある石の中で最も大きなものを指差しながら言った。
――《命晶石》
『未知なる記憶』には、そう書かれていた。命力が結晶化されて出来たもので、作ったのは古代人のようだ。体内に取り込むことで命力を上昇させることができるらしい。
「これは古代人が作り出した人工神ガンマの動力源だと言われているものだよ」
またもや、レティシアの知らない言葉が飛び込んでくる。頭の中は〝?〟で一杯だ。
確かにレティシアは命力を持っているし、その力を使って命術を扱うことができる。しかしそれは古代人だからであって、異世界人だからではない。異世界人だの、人工神だの、命力の結晶だのと言われても理解が追いつかないのだ。そもそもレティシアが住むこの世界とは異なる世界があるなど、とても信じられることではなかった。
「よく分かりませんが、この石が命力の結晶であることは理解しました」
「おお、やっぱり分かるんじゃないか!」
「これはあなたが作ったんですか?」
「いや、たまたま入手したものだよ。こんなもの、私には作れないさ」
石が《命晶石》だと言うのは確かなようだが、『未知なる記憶』には、人工神、ガンマ、動力源などと言った言葉は記載されていない。レティシアにはダタイが嘘を言っているのか、単に真実を知らないだけなのかは分からなかったが、自身を異世界人と名乗り、レティシアの命力を感じ取れる人物である。用心するに越したことはない。
レティシアは集中すると、こっそりダタイの力を探り始めた。
「でも何故、あなたが《命晶石》を売るんです? 命力を持っているなら、自分で使えばいいじゃないですか」
「ああ、そうなんだが、情けないことに手持ちがなくてね。生きるためさ」
「ちなみにお値段は?」
「金貨五枚ってところかな」
「安ッ! ちょっと安過ぎません?」
客であるレティシアすら思わず心配してしまう程の値段である。残念ながら鎧病とは関係ないようだが、未発見の新素材なのだ。
「残念ながら、もうずっと売れてないんだよ。値下げに値下げを重ねてコレなのさ」
落ち込んだ様子でふさぎ込むダタイ。
レティシアは、そんな彼の中から命力を感じ取った。命力を持つのは古代人だけだと聞かされていたが、ダタイも古代人と何らかの関係があるのかも知れない。
「ここの石、全部買ってくれたら特価! 金貨八枚ってところでどうだい?」
レティシアが色々と考えを巡らせている間に、値引きまでしてくるダタイ。恐らくレティシアが購入するかどうかで悩んでいると思ったのかも知れない。異世界人と言う意味不明な言葉を除けば、ダタイの言動は信用に値するものだとレティシアは考えた。
「分かったわ。ここにある石を全部頂くことにします」
「おおッ! ありがとう! 助かったよ!」
嬉しそうに笑うダタイにお金を支払いながら、レティシアは良い買い物をしたと、ほくそ笑んだ。
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