16話 未知の素材
よろしくお願いします。
それはどこか滑稽な姿であったが、今は悠長なことを考えている場合ではない。その巨体のせいか振動で大地が震える。レティシアは膝に手を置いてゼェゼェと苦しそうに息をしている。
「はぁはぁ……マジか……」
「マスター、街まで逃げても着いて来るかもー? どーするのー?」
レティシアの影から顔を半分だけ出しながらファルが尋ねる。
「それはヤバい。偉い人に怒られる……」
「いや、怒られるとかじゃなくてー?」
レティシアは回らない頭を使って考えていた。足を踏み入れたのは、崩れ落ちた建造物がある遺跡らしき場所。もし仮にゴーレムがその遺跡の守護者だったなら? ゴーレムの守護領域から脱することができれば追ってこない可能性も考えられる。
そんな考えがレティシアの脳裏をよぎる中、辺りに知らない声が響き渡った。
【断裂斬ッ!】
突如響いた声と共に颯爽と現れた男性の一撃がゴーレムの体を斜めにぶった斬る。ゴーレムが腕を振り上げるが、それも一瞬のことだった。すぐに動きを止めると、斬られた断面に沿ってゴーレムの上半身が滑り落ち、あの硬さが嘘のように脆くも崩れ去った。
それを見届けた男性がレティシアの方へと歩いてくる。その様子を警戒感丸出しで観察するレティシア。男性は少しクセのある金髪に精悍な顔付きをしている。装備しているプレートメイルも上質なものであった。スピード重視の剣士と言ったところか。
「よぉ。大丈夫か?」
男性の言葉にレティシアは大きく深呼吸して息を整えると彼の方へ顔を向ける。
「ありがとうございます。助かりました」
「あんたは探究者なのか?」
「ええ、一応ライセンスは持っています。あなたは?」
「ああ、俺か。俺はヨシュア・アグスティ。しがない旅のモンだ。俺も探究者さ」
「それにしても見事な剣技でしたね。まさかアレを一撃とは……」
「ん? ああ、あんなの力を乗せてぶった斬っただけだよ」
レティシアは、その力の根源が何なのか気になった。以前どこかで感じたことのあるような気がしたからだ。素直に聞いてみようかとも思ったが、彼は初対面な上、探究者でもある。聞いたところで、そう簡単に教えてくれることはないだろう。
レティシアは黙って、上がってしまった息を整える。
黙り込んだレティシアに何か感じたのか、それともただの性格なのか、ヨシュアはあっけらかんとした態度で質問してくる。
「初めて見た魔物だが、何か知ってんのかい?」
「素材を集めてただけー。分からないよー」
「なんだ? そのちっこいのは?」
「ちっこい言うなー!」
「彼女は精霊獣のファルです。アグスティさん」
「俺のことはヨシュアでいいぜ。その方が気楽でいい」
「そうですか。あたしはレティシアと言います」
「そっか。で、レティシア、素材って何だ? 何かの依頼で?」
早くも呼び捨てにしてくるヨシュアにレティシアは複雑な感情を抱きつつも、助けてくれた恩人だと自分に言い聞かせる。
「いえ、あたしは錬金術士なんです。素材集めに来ていたところです」
「ふうん。でもあのゴーレムに素材なんかなさそうだが」
「そうですね……。分かりませんが、素材が見つかった場合、あたしが頂いても?」
「んー? まぁいいぜ。俺は依頼が終わって帰るとこだったし」
レティシアからすれば素材があることは確定なのだが、下手な言動で相手に欲を出されても困る。ヨシュアの言質が取れたので、早速崩壊したゴーレムの下へ近づくと、岩をどかして物色を始めた。
「しかし、すげぇ硬かったんだが、触ってみるとそうでもないな」
ヨシュアの言う通り、レティシアの見立てでも普通の石だ。試しに近くの岩にぶつけてみたら、あっさりと割れてしまった。ヨシュアが原型を留めているゴーレムの下半身を見ている隙を狙って『未知なる記憶』を発動するレティシア。
「ふむふむ。《ダルジャーロンの破核》……破戒神の力を凝縮させた核ねぇ……。この神ってあの新興宗教の神だよね……」
レティシアはそれを見ながら、ふとスキッドロアの言葉を思い出していた。彼が言っていたように、世界の理が改竄されているのだとすると、『未知なる記憶』に出てくる名前や記述はどこまで信頼できるものなのだろう。そしてこう思う。もし彼の言葉が真実で『未知なる記憶』の情報の参照先が世界の理だとすれば、『未知なる記憶』の情報も改竄されていることになる。
「何見てんだ?」
「魔術書のようなものです」
本を覗き込んでくるヨシュアに、レティシアは超適当に答えておいた。そして『未知なる記憶』に記載されているイラストを見ながら破核を探し始めた。しかし、崩壊した岩石をどけて探すも中々見つからない。
「あれじゃないのー?」
ファルの言葉に、その方向へ視線を向けると、球体が地面に転がっているのが目に入る。
「って、そんなところにあるのかよッ!」
思わずそうツッコミを入れたレティシアであったが、ふと、ある考えが脳裏を過る。たまたま破核が体外に出たからゴーレムが崩壊したのかも知れない、と。
「ひょっとして運が良かった……?」
破核を破壊しないと、ゴーレムの活動が停止しなかったかも知れない可能性を考えると、無傷で入手できたことは幸運だったのかもとレティシアは考える。
「いや~。良い腕してますね~。ヨシュアさん」
「なんだよ急に……」
急にニコニコして話しかけられたのが不気味だったのか、ヨシュアは若干引き気味に後退る。新素材をゲットして上機嫌なレティシアであったが、かなりの疲労感に襲われていた。時間的にも引き上げ時だと判断してニーベルンへと戻ることに決める。
「もう帰るんだろ? ニーベルンまで一緒に行こうぜ」
いつもなら一人で考え事をしながら帰るところなのだが、何より命を救ってくれた恩人でもあるし、悪い人間でもなさそうなので、レティシアはヨシュアと共に帰ることにした。
ニーベルンまでは特に退屈することもなかった。ファルは「ちっこい」呼ばわりされたのが悔しかったのか、レティシアの影から出てこなかったが、ヨシュアは女性の扱いに慣れているのか、単に話好きなだけなのか、聞いてもいないことまでベラベラとしゃべって教えてくれた。
彼自身の言によれば、ヨシュアはイーオニア王国の騎士の家系に生まれた次男坊だと言う。本当は兄と共に騎士団に入るつもりだったらしいが、ふと武者修行がてら世界を見て回ろうと思い立ち、旅を続けているそうだ。とにかく世界の不思議を見てみたいらしく、不思議探究者を自称していると言う。世界には様々な探究者がいて、それぞれが何かの探究者を名乗っている。例えば、財宝探究者や魔物探究者などだ。しかし、不思議探究者と言う呼称を聞くのは初めてである。ちなみにレティシアは特に何も自称してはいない。
「俺は、ニーベルンに来て一か月くらいか? 結構居心地の良い街だな。しばらく滞在するつもりだから、また会うかもな」
ニーベルンに到着すると、ヨシュアはそう言ってひらひらと手を振って去って行った。
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