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我、所謂夢女子なり


夕日の差し込む人気のない図書室、その一角。


「あ・・・」

「リリア・・・」


彼に勉強を教えてもらっていた、そんな時。勉強に集中いていたはずが偶然、手が当たったのをきっかけに私と彼の間に甘い空気が流れるのを感じる。

(あ~!やっぱりジンカッコいい・・・)

サラリと流れた前髪の間から覗く瞳に熱が籠るのを見て胸が高鳴る。

普段から人気のない図書室、互いに好意を持っているのは気づいていたが中々踏み出せないでいたこと、それらが合わさった結果だろう。互いの唇がどちらからともなく近づく。


「ん・・・」

「リリア・・・言う前にしてごめん、俺、お前のことが好きなんだ」

「私も、私もずっとジンのことが好きだった・・・!」


思わず流れた涙を彼が拭ってくれた後、もう一度唇が重なる。












______________________________________________




はーい、こんにちは。

あ、そっちじゃないです。濃厚なキスを交わしている二人ではなくその後ろの本棚の更に後ろの、そう、こっちです。

改めて、こんにちは。良い雰囲気の二人の野次馬していたヴェルティーア・クランベルト。一応、伯爵令嬢ですね。まあ、そういうどうでもいいことは置いておいて、何故野次馬していたのか、結構近距離で野次馬しているのに気づかれていないのは何故か。

そう、あれは八年ほど前の話。









「執事長・・・いえ、ジェードさん!お願いします!そろそろ私の想いに応えてください!!」

「そうはいっても、私と貴女は一回り程歳の差があります。何度も言ったように、私よりもふさわしい相手がいるはず・・・」

「それでも・・・!私はあなたが好きなんです!!」

「アンナ・・・」



「ふっふっふ、やっぱりうちの執事長とアンナはイイ感じだった・・・!いい組み合わせだし、早くくっついてくれないかな・・・?」


見ていたのは執事長と私付きの侍女のアンナ。あの時も変わらず野次馬をしていた。

なんせ、私の趣味は他人の恋愛模様を観察すること。そしてもう一つの趣味の魔道具の開発。その二つが組み合わさった結果、自作した魔道具を使って野次馬することが日課になるほどになっていた。


「っと、今回の魔道具、効果はいいけどやっぱり大きすぎたな。もう少しコンパクトにしないと・・・

ペンペン・・・あれ?こんなペン、あったっけ?」


その時自領の城内の図書室にいたのだが見たことのないペンを見つけたのだ。父が使っている万年筆に形が似ているが軸部分があまり見ないデザインで、解析にかけていないのでしっかりとはわからないが見たことのない素材だ。

メモを取る用に図書館の机にはペンが置かれているがそれとも違う。そっちは羽ペンなのだ。

見たこともないはずのそのペンに妙な既視感と懐かしさを感じてその正体を確かめたくなる。

疑問に思いながら手に取った瞬間、記憶の奔流にペンを持ったまま頭を抱えて蹲ってしまった。


私は、もふもふ侍・・・?いや、それはペンネーム。本名は佐藤 稔・・・だったはず。

いやいや違う!私は、ヴェルティーア・クランベルト、普通とは少しずれているが、普通の範囲内の伯爵令嬢のはず!

日本の一応大企業に勤める平しゃ・・・そうじゃない!あれ?!


『・・・い、おい!聞いてるのか?!』

「・・・は?」


混乱しているなか、突然声をかけられてびっくりして周囲を見渡すが誰も見当たらない。先程までいた執事長とアンナももういないし、何より二人のどちらの声でもなかった。


『こっちだ、こっち!』

「・・・・・・はぁ?!」


なんだこれは?夢か??

声の方向を向くと、それは手の平から聞こえてきた。正しくは手の中のペン・・・Gペンからだ。

妙に渋くていい声に戸惑うのと同時に既視感の正体に納得した。


前世の私の名前は佐藤 稔。一応大企業の、給料はそれほど高くはないがホワイトな部署で働いていた。お独り様を楽しみつつジャンルを問わない推しカプの漫画を描いていた。前世の私は所謂夢女子というやつだった。夢女子の中でも私は神視点タイプの夢女子だった。キャラに自分を投影するのではなく、好きなカップルがいちゃいちゃしているのを見たり想像したりするのが好きだった。その性質がそのまま今世に現れたらしくさっきのように影から野次馬している。

そういった内容が一気にあふれかえり混乱していたがしゃべる(?)ペンに驚き、なぜか逆に冷静になれた。

膨大な記憶に頭痛がするが、本当に驚くほど冷静なのだ。痛くて頭をさすっているが。そうして整理した内容思い出しつつ手の中のペンを眺める。懐かしさがあるはずだ。

初めてGペンで漫画を描いたとき、その時からずっと使い続けていたGペンとそっくりなのだ。

ペン軸はおそらくプラスチックだろう。メタリックな黒色で安っぽいはずなのに妙に手になじむこの感じ。そっくりというより、これ前世で私が使ってたヤツじゃないか??うっかりつけてしまった傷まで一緒だ。


『おい、無視すんな!』

「ん、ああごめん。今思い出したんだが、君、私と会った(?)ことがないか?」

『会ったも何も、お前が死ぬまでオレの事「相棒」だのなんだの呼んでいただろ』


やっぱり!

そう思っていると、つらつらと私が死んでからのことを語り出した。今度は聞き逃さないように口を噤み耳を澄ませた。

曰く、前世で大事に使われるうちに付喪神状態に近いものなっていたそうだ。ぼんやりとした意識の中、私が死んだ後暫くして何かに引っ張られるようにして壁をいくつか突き破るような感覚がした後、この世界にいたようだ。この世界でしばらく過ごすうちに力が蓄えられたのか意識が覚醒し、自分で自由に動けるようになって数百年程私を探して旅に出ていたらしい。何故私を探したのか聞くと、なんとなくこの世界に私もいつかは分からないが来るような気がしたかららしい。そうして漸く私を見つけたのだと。


「・・・分かったけど、私を見つけてどうするの?」

『・・・・・・名前』

「へ?」

『名前、呼べ』

「知らないよ、名前」

『なんでもいい、お前が前オレに対して読んでた名前でもなんでも』

「・・・・・・」


今、思い出したのは今世でのことだ。

今世で増えた趣味の魔道具作り、その中での知識。それには『命を持つ魔道具』があった。

何かの拍子にも道具に命が宿る。それは、精霊の祝福だったり、長い間人の魔力に触れるうちに命が宿ったりする。そうした魔道具はほぼ破壊不可となり、特殊な能力を持つことがあるそうだ。故に王家直属の管理下に置かれることばかりだ。

そしてもう一つ、命を持った魔道具は意識が覚醒してから一番目の持ち主に名を乞うそうだ。


「クロム、君はクロムだよ。またよろしくね?」

『・・・おう』


前世で直接呼んだことはないが心の中で決めていた名前。安直だがペン先の商品名の一部をもじった名前だった。呼んだことはないが知っていたらしい。

一番しっくりくるし、何より今更違う名前を付けるのも違うと思ったからだ。

にしても・・・


「・・・君は、私のことが本当に好きなんだねぇ?」

『・・・・・・』

「ねーえー?」

『うるせー』


意識が覚醒してから新たに持ち主を見つけるのではなく、態々私を見つけ出すなんて、ね。




「ところで君の能力はなんだい?」

『持ち主限定だが、他人の心の声を可視化できる』

「・・・なんで・・・」

『?』

「なんでもっと早く来てくれなかったんだい?!」

そしたらもっと野次馬が楽しめたのに・・・!!!!

『・・・お前、前世でも思ってたが、そういうとこだぞ・・・』

ああさっきの執事長とアンナのも・・・!と発狂している私をクロムがないはずの目で冷たい視線を送って来た気がした。

良いもんね!冷めた目で見られたって別に!

私は私の好きなものに素直なだけだから!!!








そんなこんなでクロムの能力と自作の野次馬用の魔道具を使って冒頭のようにばれずに野次馬という名の推しカプウォッチングを楽しんでいた。


(ムフフ、やっぱりリリア×ジンの幼馴染カプ良き・・・いやービバ!異世界!

クロムもありがとね?)

『ヘイヘイ』


ウォッチング中に発覚したことだが心の声は恋愛小説のような書き方で現れた。Gペンなのに・・・と思ったが小説も好きだし、Gペン自体は筆記体等を書くためで最初から漫画のためだったわけではないし・・・と思ったがここで思わぬクロムの能力が発覚した。

なんと、()内は吹き出し風になるし、トクン・・・みたいな擬音語も書かれるし、トーン入れしたように目立たせる線が入ったりするのだ。例えば色気がムンムンタイプの人が華をしょっていたりするだろう。あれが実際に私限定でだが可視化されているのだ。・・・まあ、触れないが。

他にも無表情の人が怒っているときに怒っているのが分かるようにオーラのようなものを入れてくれたりすることがあるので本当に助かっている。

あ、因みに普段は絶対に見ないといけないような緊急の物を除いて見えないようにクロムに頼んでいる。ただ人の機嫌等はトーンのようなもので分かるように頼んだ。具体的な心の声は見ていない。

・・・恋愛イベントのようなものの時だけだが覗いている時点でダメなのはわかっている。

だが、それで知った内容を悪用する気はない。ただ自分が萌えに悶えるためだけだ。

そんなことを言っても、クロムのことを国に報告したりすれば悪用する気はなくてもしなければならなくなったりするだろが・・・

そう考えつつふと思ったことをクロムに尋ねた。


(ねえ、クロム。この世界って“どの世界”なんだろうね?

『君蒼』の世界のキャラもこの世界で見たし、『ゆめにじ』の世界のキャラもいた。同じ世界にいる分設定が少し変わってたりするけどいろんな世界のキャラがこの世界で生きてる)

『知らねえよ、この世界がどの世界だろうがお前は“この世界”で“生きてる”。それだけだろ?』


ぶっきらぼうな言葉に思わず笑みが漏れた。

因みにだがここまで全て念話で話している。そうでなければ変な人を見る目で見られただろう。

まあ、魔道具がなければ実際に話していなくても変な人を見る目で見られていただろうが。


この世界は本当に不思議だ。

前世で見た顔ありのヒロインや主人公もいたが、私が描いていた顔無し主人公や、知り合いや有名な絵師が描いていた所謂夢主人公というのもいた。

私の描いた顔無しちゃん、そんな顔だったんだね・・・君かなり可愛かったよ・・・(一応?)親として誇らしいよ・・・

ともかくまあ、色々世界が混ざったせいか国の数は多いし、国ごとに世界観はごちゃごちゃだ。例えば隣国にはとある乙女ゲームの舞台になっているがその国のとある屋敷はホラーゲームの舞台だし、この国でも他領の一角にホラー恋愛ゲームの舞台があるし、その隣にギャルゲーが舞台の町もあった。

一応魔法がある、使えるというのはこの世界では共通認識だ。

一日の時間はこの世界では三十六時間だ。月ごとの呼び方が違うが一週間七日、一か月約三十日、一年十二か月で変わらない。そんなところもおかしい。

だから違和感がすごいのだが、前世を思い出すまではそれを不思議に思わなかったし、それでこの世界はしっかりと成り立っている。

そうやってウォッチングの合間にこの世界を観察した結果、前世でよくあった悪役令嬢モノとかのように何かした方がいいのでは・・・と考えていたりしたのだがクロムの言葉で吹っ切れた。

よし、やっぱり私は何もしないでいよう・・・ウォッチングはやめなくていいよね?


そう思って前を向いて歩き出そうとすると鋭い視線を感じた。

魔道具を使ってるので分からないはずと思ったが、魔道具も万能ではない。視線については気を付けるかと思いつつ今日見た恋愛イベントや魔道具を調整どう調整するかに思考は塗りつぶされた。


基本見切り発車なので誤字報告等のコメントがあるとありがたいです。

変な主人公ですが生暖かく見てやってください。

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