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翌日、宿を出た三人は、昨日と同じく町を歩いていた。やや風が強く、スペアは帽子で赤い巻き毛を抑え込む。
「そういえばいつもの車…」
「カプセルだ」
「悪い。カプセルはどこに置いてんの?」
「あれは畳んでこっちのポケットにしまってある」
「『畳んで』?…へえ、便利だな…」
中心部に近づくにつれ、人の数も増える。いつしか、宿から見えた巨大な教会の正面に来ていた。
「ここを出たらまたしばらくあれに乗ることになる。他に買うものはあったか?」
「うーん…」
と言いかけたハイネの顔が明るくなった。
「昨日の子じゃん!」
「何?」
あの少年が母親に手を引かれ、教会の正面扉からゆっくりと歩いてきた。
「また会えるとは思わなかったな。おーい、昨日ぶり」
ハイネは笑顔で手を振るが、少年は気づかない。
「#▽*■○!」
赤ん坊も何か叫んだが、やはり反応しない。
「…?」
スペアはためしに、少年に向かって手の先を軽く揺らした。ごく控えめな手の振り方だが、ようやく気づいたらしく顔を向ける。
そして母親の手をすり抜け、昨日と全く同じような足取りで近づいてきた。
「きみは・・・」
スペアはささやいた。
「昨日、背の高い女の人に会っただろう」
「おんなのひと?」
「ああ。今私の横にいる」
「?」
少年は不思議そうな顔で視線を彷徨わせ、
「どこにいるの」
と言った。
ひゅっと息を飲む音が隣から聞こえた。
スペアは続ける。
「赤ちゃんを見たね?」
「あかちゃん」
少年は繰り返す。
「…あかちゃん。みたっけ。みたかな。はじめて…」
「何してるの」
彼の腕を引いて歩き出したのは母親だった。
少年は足を少しふらつかせたが、そのまま抵抗もせずについていき、人混みの中に消えていった。