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謎が解けないまま、三人は中央部近くの店にたどり着いた。ガラスの扉の向こうに女性客がごった返している。
「ここでなんか買うの?」
「櫛だ」
「櫛?」
「前のものは歯が欠けてしまってな」
「ふーん」
「ハイネも入るか?」
「いや、買っても使わないしいいや。死人にクシなしってね」
「うまくない」
「すいませんね。とにかくいってらっしゃい」
「▼*○§*~」
スペアが店の中に消える。二人はぽつんと残された。
ハイネはぎらぎらした大蛇の目で辺りを見渡す。不気味な眼に気づく者はいない。すっかり慣れたはずの怯えた眼差しは、誰からも向けられなかった。
「…」
「◇…」
しかし直後、恐怖でも嫌悪でもない視線を感じたハイネは振り返った。
そこにいたのは5, 6歳と思しき少年であった。
「…?」
「…」
二人と一人はしばし沈黙する。
「…」
少年は近づいてきた。
(何?わたしが見えんの?…あ、今の言い回しは幽霊っぽいなぁ)
ハイネがそんなことを考えていると、少年の目線が腕の中に向けられる。
背の高いハイネはかがんだ。
「赤ちゃん?初めて見た?」
「…うん」
「見る?」
「うん」
「♭●◇!」
少年は赤ん坊のきらきらした顔を覗き込んだ。
「きれい」
「そうだろう」
「あかちゃん、かわいいね」
「そうだろう、そうだろう、もっと言いなさい」
「なあに、それ」
小さな笑い声がこぼれる。
「一人かい」
「…おかあさんときてる」
「今お店の中?」
「…うん」
「お外で待ってんだ」
「うん」
「#▼」
「あっ、しゃべった」
「喋るよ。何言ってるか分かる?」
「わかんない、なんていってるの」
「分かんない」
「えー」
「ふふ」
「おねえさん、なんでさっきから、おかおをてでかくしてるの」
「なんでもないよ、なんかまぶしくて」
「おめめがみえないよ」
「ちょっとなら見えるよ」
そのとき、店の人混みからほっそりした女性が姿を現した。その顔を少年と見比べてハイネは言った。
「お母さんじゃない?」
ぱっと振り向いた少年は急いで駆けていく。
「良い子にしてた?」
「…うん。おねえさんとしゃべってた。あかちゃんみた」
「おねえさん?」
「あっち」
少年はハイネと赤ん坊を指さす。
母親はいぶかしげな顔をしたが、やがて少年に向かって笑みを浮かべた。
「行きましょうね」
手を引かれて去る間際、少年はもう片方の手を、ハイネに向かって「ばいばい」と小さく振った。