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昼間と違う口調で、同じ顔をして笑う女王は、きらめく祭壇を背に立ち止まった。
「グゼさん……」
「┌▽※▼┌★」
「女王様だったんですか」
ハイネはそうつぶやいたが、スペアは首を傾げた。
「あなたは男性では?」
グゼは薄く笑うと、右を指さす。水晶でできた椅子と机があった。
「少し長くなるゆえ、あそこで話そう。わらわたちの事情と、そなたらをここに呼んだ理由を」
全員が腰かける。グゼは祭壇を背に、口を開いた。
「この国では浄化の祈りの力を持つ者が女王に選ばれ、戦争と精霊が残した呪いの浄化を請けおう。女王は塔の中で祈りの務めを果たし、国民の前に姿を表すことはない。主に神官またはその見習いから選ばれるが、これまでは皆女性であったので、女王と呼ばれるようになった」
「なるほど」
「ハイネ。お主、魔女というたな。わらわも詳しくはないが、魔法については少し聞いたことがある。そなたに問いたいが、思うに、祈りの力というのは魔力の一種ではないか?」
「そうでしょうね」
ハイネが答えた。
「祭壇に向かって祈るんでしょ?あれは魔法発動を助ける道具だと思います。杖や魔導書みたいなもんです。ただこれだけ大規模なものを動かせるのは、浄化に特化した魔力をもつ者だけじゃないかと」
「やはりか」
異変が起きたのは数年前だった。女王候補をどれほど探しても国の中に該当する者がなかったのだ。占いによりようやく見つかったのが、遠い異国の地で生まれた男の幼子。
「それが…」
「そう、わらわじゃ。国の支えとも言える女王が異国の者、しかも男であるとは前例がない。 この国はしきたりを重んじる国民も多いでな、災いの前触れと騒ぎになることを避けるため、事実は秘匿された。だからわらわは、女王として育てられた」
「……」
「肌の色は見たら分かるゆえ、わらわがこの国の出でないことは騎士や神官たちも知っているが、男であることは、ごく限られた神官しか知らん」
「皆の言うことには、わらわの力は歴代のどの女王より強いそうじゃ。清めの能力を物体に込めることもできるほどに」
「それが昼間売ってた花ですか?」
「ああ。わらわが言い出したことじゃ。より直接、力を届けるために。神官たちは、籠りきりのわらわを哀れんで、花売り娘としてなら外出を許してくれた。市井の者に顔は知られとらんからな、あの時間だけは女王ではない、花売りのグゼよ」
「それでも浄化の祈りは土地に染み付いた怨嗟を、せいぜい人が暮らせるまで緩和できる程度。消し去ることはできない。毎日の祈りでその日をしのいでいるにすぎん…浄化が追いつかず、身体や精神を病んでいる国民もいる」
「移住はできないのですか?」
「この土地で産まれたものには呪いがまとわりついておる。離れたところで無駄じゃ」
答えられてスペアは肘置きを握りしめる。冷たかった。
女王は長いまつげを伏せた。
「…この国の平和はまるで氷の像。僅かな怠慢ですぐに溶けて崩れ去ってしまう。明るく笑っている者も、心の底では不安で仕方がないのじゃ。わらわにもっと力がありさえすれば…」
「そこにわたしたちが来た」
ハイネの声に、グゼは顔を上げ、その眼を見つめ返した。
「この顔が恐ろしくありませんか」
「先刻言うておったことか。いいや、美しい色をしている」
「光栄です。話を戻しますが、救世主と皆さんは言った。この子に現状を打破できる可能性があるということですか」
空を見ていた赤ん坊の目が、女王に向けられる。その視線を受け止めながら、グゼはゆっくりと言った。
「言い伝えがある。大地に染み付いた呪いを完全に浄化する方法が1つだけある。その鍵は名無しの赤ん坊が握ると」
祭壇の光る部屋、高い天井の先まで空気がしんとする。
「心当たりはあるか?」
「………浄化……」
「女王として頼みたい。どうか、民の不安を消し、この国を救うため力を貸しておくれ」
グゼは椅子を立つと、深々と頭を下げる。赤いドレスの袖が床についた。
「…思い当たることが、ないわけではありませんが…しかし…どこから話しましょうか」
そういったのはハイネだった。
「そうじゃな、もう夜も遅い。今夜は等の客室に泊まっていくといい。明日、詳しいことを聞かせてくれんか」
三人はそう言われ、一礼ののち退室した。




