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三人は、馬車の中にいた。
あの後、一も二もなくついていこうとするスペアを止め、ハイネはその場を離れようとした。
しかし、大柄な男は突如、地面に手をつき頭をこすりつけたのだ。
「お願いいたします、あなた様方の存在が頼りなのです。この国をお救いください」
そうするうちに他にも何人かの人間がやってきて、ひざまずき始めた。
「お願いいたします」
「お願いいたします!」
やむなく、行き先と目的、危害を加える意図のないことを確認し、一行は迎えの馬車に乗り込んだのである。
柔らかい椅子を備えた、上等な馬車だった。
「前から言わなきゃと思ってたけど、あんたは人の頼みをすぐに受け入れすぎ」
「よくないことだろうか」
「騙そうとする人もいるから。自分の頭で考えて判断しないといけないよ」
「そうか。気をつけなくては」
「でも、今回はちょっと変だな。急に崇められて、女王様に会ってくれなんて…」
告げられた行き先は飴色の塔。目的は、そこにいるという女王との面会だ。
「女王のことはさっきの説明で大体分かった?」
「ああ。彼女なくしてこの国はないといっていいのだな」
「政治は議会制みたいなんだけどね。なんで我々が呼ばれたんだろう。でも…きっかけはあれだよな、わたしが言った…」
『話すと長いですけど、この子は名前を付けてはいけないことになっていまして』
「ということは」
二人同時に言葉を区切る。視線の先には赤ん坊がいた。
赤ん坊は美しかった。
暗い馬車の中、簡素な衣服に身を包み、それでもなお赤ん坊は美しかった。
小さな耳に小さな手、見た目は人の赤子にも関わらず、生きた人間といった雰囲気がまるでしない。
(人は小さく愛らしいものを愛でるというが…)
スペアはこの国に入るときのことを思い出した。眼下に広がった美しい景色。
(この赤ん坊の美しさはそれに似ている。雄大で感動的で、侵犯することが決して許されない領域にあるような…)
やがて、馬車が止まった。
三人が降りた先に、深紅の絨毯が長く引かれている。その上をたどって後続の馬車から出てきた人々に案内され、塔の内部へと入った。




