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「お一人ですね」
入国手続口の役人にそう言われ、三人はあっけにとられた。
「いや一人じゃないですよ。三人です三人」
「☆○▽◆!」
ハイネが言いつのり、赤ん坊も同調する。
しかし役人は反応せずにすたすたと歩き去った。しばらくして戻ってくると、書類を手渡しながら告げた。
「手続きが完了いたしました。スペアさんで間違いないですね。こちらをお受け取りください」
「どうなってるんだ」
腑に落ちないといった表情でハイネが呟く。腕の中から見上げた赤ん坊がその表情を真似た。
高い壁に囲まれた小国の中には、国の中央へと続く道沿いに、あらゆる店が所狭しと並んでいた。入国から数時間、いくつもの店を見て回った一行だったが、スペア以外に声を掛けてくるものは一人もなかったのであった。
「誰も、二人の姿が見えていないようだな」
普段は無表情なスペアも眉をしかめて考え込む。
「そもそもハイネは亡霊だろうに、周りから姿が見えないということは今までなかったのか」
「ない。触りでもしなけりゃ生きた人間でないと気づかれることもなかったね。他の霊に比べて影が濃いんだよ、消えることができないんだから」
「ふむ…」
「誰しも少しは霊感ってものを持ってる。普通の幽霊が見えるくらい強いのを持ってる人は珍しいけど、わたしくらいなら誰でも見えるさ。天使もしかり」
「つまり、この国の人間は皆、霊感が全くないということか?」
「*◎△☆」
人で賑わう道は延々と続いている。
「でも懐かしいな、わたしがただの幽霊だったころはこんな感じだったよ。こんなことをしても誰も気づかないのさ。ほーらほらほらほら」
「遊ぶな」
「ごめん。あともう一つこの国には変なところがある」
「なんだ?」
「□▼#○▲?」
ハイネはぐるりと辺りを見渡した。
「どこでも一人か二人はいるもんだが…ここには全くいないんだよ、幽霊が」