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予定通り、式は夕刻から始まった。
教会の中で、祭壇の前に立つ新郎新婦、その後ろに大勢の参加者たち。急遽参列した三人は最後尾に控えていた。
あの白金の指輪は皆の見守るなか、新郎の手で新婦の指に嵌められた。
堅苦しい式は早々と終わり、参加者同士の宴会が始まった。
色とりどりの料理が並んだ白い台。すでに辺りは暗い。桃色や橙色の灯篭が、幸せそうに微笑む若い二人と、それを取り囲んで騒ぐ人を照らす。誰もかれも酒をたくさん飲んで、陽気になっている。
「お嬢ちゃん、こっちのお肉をお食べ!」
「ありがとうございます」
「この果物はどうだい、うちでとれたんだよ」
「ありがとうございます」
「酒はやめときな、苺水があるよ!」
「分かりました。みなさんありがとうございます」
「子供なんだし遠慮せずにいっぱい食べな」
「おいしいかい?」
「はい、とても」
スペアは次々と料理を進められるがまま、受け取って食べる。やがて人の波がおさまると、皿を置いて、姿の見えない友人たちを探しに教会の裏にある庭をのぞいた。
「ここにいたか」
スペアは、隅にある柳の木の下に歩み寄った。
ハイネが、食事を終えて遊んでいる子供たちを遠目に眺めているらしく、その可愛らしさに目尻を溶かしている。赤ん坊はそれが若干面白くない様子で腕の中に納まっていた。
「あれ、スペア。来たんだ、食事はもういいの?」
「十分いただいた。当分は太陽光発電をしなくてすみそうだ」
「ところで、いい式だったね。最初のあれはよくわかんなかったけど」
「ああ、あの動きだな」
式の初めに、全員が帽子を取り、右手を心臓の近くに当て、斜め上を向いてしばらく沈黙する、という時間があったのだ。
「あれは新郎にさっき聞いたが、殉職者に対する敬礼らしい」
『新郎新婦の身内に殉職者がいた場合は、式の最初に敬礼をとることになっているんだ。俺の父親は警備兵だったから…この教会の地下墓地に眠っているんだよ』
「だそうだ」
「なんだ、そうだっのか。真似しとけばよかった」
「…それで納得がいった」
スペアがつぶやく。
「なにが?」
「@*?」
「いや、指輪探しの途中で、教会の西の地面に取っ手のようなものを見た。あれは扉だ、地下墓地への入り口であったのだと」
「なるほど」
「ハイネこそ、いいのか。ハイネと話したがっている人もそれなりにいるようだが」
「いやーみんな優しいけど、これ以上中にいるとばれちゃうしね…飲み食いもできないし。どうしようかと思ってたら、この子がぐずってくれたから、あやす体で出てきたわけ。いや、あんたは世界一空気の読める赤ん坊だよ」
むずかる演技をすっかりやめた赤ん坊は、ハイネの腕の中で両の親指を立てた。
「それに、周りに他人のいないところで、わたしと話したい人もいるんじゃないかな」
「?」
「ほら…」
三人が顔を向けると、建物の陰から、その人物は姿を表した。
赤いスカート。長い手足。鹿のように美しい花売り。
「グゼさん」
名前を呼ばれたその顔は、こわばっていた。




