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カプセルの運転席で、スペアがを操っている。頭には帽子を被っていない。
「そろそろ乾いたと思うよ」
後部座席から声をかけたハイネが手を上げる。その長い指の動きに合わせて、いつもの古い帽子がゆっくり飛んできてスペアの頭に収まった。
「ありがとう。やはりたまには洗わんとな…」
スペアはふと疑問が浮かんだ。
「ハイネは服を着替えたりしないのか?」
「幽霊だから脱げないの。基本的に霊は、死んだときの姿のままの形をとるからね」
「そういうものか」
「まあ、ちょっと袖まくったり、裾持ち上げたり、頭巾…フードだっけ、を取ったりはできるみたいだけど」
どこまでならいけんのかな、とハイネが長い黒衣をいじりだす。
(そういえばハイネの足を見たことがないような気がするが…)
疑問が浮かんだとき、眼前が開けた。崖下に街が広がっていたのだ。
「おお!」
スペアは珍しく、大きな感嘆の声を上げた。
淡く優しい色のレンガの町並みがどこまでも広がっている。穏やかな日差しが町全体に降り注ぎ、建物の間に植わった木々は風に吹かれ、まるで一枚の絵画のような美しい光景であった。
「見事な景色だ…」
後部座席の二人に同意を求めようとしたとき、視界の右端にさっと黒い影が入った。
猫だ。
「!」
スペアは慌ててブレーキを踏み、ハンドルを切る。
猫は軽々とカプセルを飛び越え、茂みに消えた。
「あっ…」
「おい…」
だが、今の無理な動きでカプセルの動きはずれ、前輪は片方、崖の向こうに落ちていた。
「○♭︎@´-!」
声も出なかった。ガラガラと石を巻き込んで車体が転落する。
地面に叩きつけられる間際、回転しながら落ちていたカプセルが突如、ピタリと止まった。




