3 (裏)
「俺は確かに親父の店を継いで料理人になったが、あいつなんかより寿司の味は俺の方が上のつもりだ。この街で俺の寿司に夢中にならねえやつはいないぜ。店は大繁盛してた。何もかも順調だったんだ」
遠い目で続ける。
「なのに、つい昨日のことだ。堕天使が俺らの村に来やがったんだ……」
男は傍らの赤毛の子供と目を合わせた。
「堕天使…わかるか? 真っ黒な服の。それともお嬢ちゃんの国では悪魔と呼んでるのかな。あいつは強えぞ、魔除けのまじない札もものともしねえ」
彼は天井を一瞥し、少し笑った。
「奴は黒い稲妻で町人全員を撃った。すると俺らの胸元に痣が浮かんだ…それがじわじわと広がってやがる。体をゆっくり死なせるんだとさ。治癒師の術も無駄だった。みんなもう助からねえ、明日の朝には死んでる……」
寿司屋は胸の中心をとんとんと叩いた。
「だから俺らは話し合って決めたんだ、皆この街で静かに最期を待とうって」
首を横に振る。
「そうしたらどうだ。この店に客がぞくぞくとやってきたんだ。どうしても最後に、俺の寿司が食いたいって。人生最後の食事はそれがいいって。客に切実な顔でそう言われたら、俺も…『最期まで寿司屋としていられるなんて幸せだ』って言って、寿司作るしかねえだろうが!」
男は涙声で叫んだ。
「おかげで俺は一日働き詰めだ!ちくしょう!俺だって人生最後の日なのに……好きなもん食って寝てたかったよォ!」
嗚咽交じりの声をぐずらせながら、男は子供の頬を撫ぜて、へらりと笑った。
「堕天使の奴がいってたぜ。この痣は血の流れた生き物になら、うつるんだってよ。俺に触ったな、お嬢ちゃん…かわいそうにな……遠くからうちの寿司を食いに来たんだろ、作り手が死にかけとは知りもしねえでさ、あんたも道連れだ………ははは…」
子供は表情を変えなかったが、目には戸惑いの色が浮かんでいる。
そのときだった。
「○○○○○…?」
戸の間からぬっと頭が出てきた。
頭巾を被った頭が何事か言いながら入り込んでくる。真っ黒な衣をまとった長い影。
寿司屋はみるみる青ざめた。
「……!…く、来るな! どけ!」
そして子供を思いきり突き飛ばし、振り返りもせず裏口から飛び出し、店から走り去った。




