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「これ、読める?」
黒いローブの下から、赤毛の少女―スペアに向かって、細い腕が伸びてくる。
ハイネが差し出した紙には、奇妙な模様が描かれていた。
「何だこれは? 読める、というからには…字なのか?」
スペアは眼鏡をずり上げながら、紙を睨んだ。
「そうらしい」
「♯︎◆☆*¶」
「あまり読み書きには自信がないが…」
小さな指先で一点を指さす。
「この箇所は文字に見えなくもない」
「なんて?」
「……ミ……ク……ダ……ス」
「あ、それやっぱりそう読めるよな」
「∂%●〒」
「違うのか」
「正確には違うみたい」
「#Θ〇∇♪」
曇天の下、先ほど入り込んだ街の角で休みながら、三人は雑談をしているところだった。
「これは天界の文字だそうだよ」
「天界の? 分からないはずだ。いつもこの赤ん坊が話している言葉を文字にしたようなものだということだろう?」
「そう。だから天使は読めるみたいでさ。だよね?」
ハイネはつまんだ紙を赤ん坊の方に向けた。
ところが、赤ん坊は口を閉じ、真面目な顔で右手を立てて「待った」という風に突き出した。
「あれ? おかしいな…前は読んでくれたのに」
「できない、といっているようだが」
「なんだろう?」
「立ち去れ、悪霊…」
低い声がした。
三人が揃って振り返ると、老人が立っていた。太い眉に鋭い眼、背筋は真っ直ぐに伸び、枯れ枝のような手に杖を握っている。




