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「さて、水でも汲んでこよう。東の方に淵があったからな。少し小屋の中を掃除したい」
「いいね。昨日の雨で流れが速くなってるかもしれないから気を付けてよ」
「ああ」
「でも何に汲むの?」
スペアは服を少しまくり、腹…についた扉をパカッと開けた。手を差し入れると桶を取り出す。
「あんたの体はどうなってるんだ…」
戸から出ていくスペアの背を見ながら、ハイネは唖然と呟いた。
横を見ると、赤子二人が座ってこちらを見ている。
「さっきの遊びはやめたのね」
二人は並んで「他に何かない?」という眼差しだ。
「うーん、こんなのどう? わたしは舌が長くて、鼻の先につくんだよ、ほら!」
ハイネはべろーんと舌を突き出すと、その先を鼻の頭にぎりぎり届かせた。
赤ん坊二人は真剣な顔で見つめている。
「全然ウケない…」
行儀のよくない仕草を真顔で見られて気まずいまま、つりかけた舌を戻したそのとき、
ガタン!
と木戸が鳴った。
スペアだ。
さっき出ていったばかりの彼女は、右手に桶を、左手に木靴を提げている。
その顔は、逆光でも分かるほど真っ青だった。
「どうした?」
玄関まで移動したハイネの前に、スペアは濡れた靴を差し出した。
「なにこれ」
「覚えていないか。ニケさんがここを出るときに履いていたものだ」
「これをどこで?」
「……淵で」
「!」
水の染み込んだ靴。靴の裏を滴が伝いぽたぽたと地面に落ちる。
「…昨日の雨で濡れている。彼女が淵に沈んだとしたら一昨日より前…」
「探しにいかないと!」
「……それに……」
「なんだよ」
「……この靴は淵に向かって、爪先を向けて、揃えて置かれていた」
「えっ…」
ハイネの指先も、スペアの手も震えている。
「じゃあ、ニケさんは自分から淵に…?」
「……」
「そんな馬鹿な! 言ってたじゃないか、絶対に戻ってくるって、この子の母親なんだからって…」
そこまで言って、ハイネは気がついた。
「あっ、そうか」




