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「複雑?」
「吸血鬼は基本的に、恐れられ忌避される存在といっていい。……便利なわりに魔法が普及しない、って話してたよね」
「何か関係が?……もしかして」
「そう、『魔法を使う者』も吸血鬼化の条件のひとつ。強力な魔術師は正しく埋葬しても吸血鬼化することもあるとか……大抵の人はそれを嫌がって、気軽に魔法を学びたがらない」
「そうだったのか。だが…不死のために自ら吸血鬼になろうとしたものもいたと…」
「そう。画家が吸血鬼の絵を描くっていう話もしたでしょ。…恐るべき人喰いの魔物とはいわれるけど、その一方で数も多くないし、活動に制限もかかるし、見かけることすらなく一生を終える人の方が多い。だから危険性に実感がなくて、むしろ不死や吸血という神秘性を備えた吸血鬼に、憧れや崇拝を持つ人もいるんだ。少なくなったけどね」
「……」
「学者って人はどんな立場の人かな…」
日はまだ高かったが、厚い雲が空を覆い始めていた。風が強くなり、草木が家の外でざわざわと音を立てた。
スペアはふとあることに気づいた。
「ハイネはあらゆる魔法を操る魔法使いだった、と言っていたな」
「覚えててくれてた?というか信じてくれてたのか」
「吸血鬼にはならなかったのか」
「……」
幽霊は沈黙した。
「……その心配は、なかったよ。多分それは、わたしが…」
だが、それ以上の言葉が続かない。
「やはり、まだ話す気にはなれないか。悪かった」
「……ごめんな。込み入った事情があるとか、そんなんじゃないんだ。ただ、自分が死んだときのことを思い出すと、怖いというか、なんともいえずぞっとして…いつかは話すよ、わたしの昔のことを」
「無理はしなくていい。私はただハイネについて知りたかっただけだ。それは過去を知らなくても、一緒に旅をすることでも叶えられている」
「うん……」




