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はぐれ三人  作者: agdpm0w
第一話 占い師
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3

「占い師さん、最近お客さんがこないと言ってましたね。それはいつ頃からですか」

「いつ頃と申しますと」

「はい。思い出せますか、昔のことを」

「昔・・・」


暗い路地裏に沈黙が降りる。


「・・・思い出せません。何も。どうしてでしょう・・・」

(そんなはずはない。わたくしはずっと、ここで、いいえ、でも、本当に・・・?)


赤ん坊がゆっくりと目を開いた。

その体が女の腕をふらりと離れ、宙に浮き上がっていく。突然のことにただ振り仰いだ老婆の全身が、何も見えなくなるほどの光に包まれる。


(あ・・・)


しかし老婆には見えた。まばゆいながらどこか優しい光の中心にいる赤ん坊、その背中には真っ白な翼があった。


(天使様・・・?)


そして、老婆の頭に、波のような流れがどっとなだれ込んできた。


(!)


記憶が冴え渡る。


(わたくしは・・・)


光の外にいた二人は、静かに会話を交わしていた。

「うまくいったようだな」

「ああ。天使の力ってのはやっぱりすごいや。いや、最後まで、まだもう少しか・・・ほら」


照らされたままの老婆が椅子から立ち上がり、二、三歩進み出てきた。


「思い出しました。わたくしはとうの昔に、ここに座ったまま、・・・ようやく気づくことができました。わたくしはもう、この世の者ではなくなっていたのですね」


「ええ・・・」


「ありがとうございます。皆さんのお陰で、自分の行くべきところが分かりました。最後まで占い師でいられて、幸福な人生でした」


「それはよかった」


「天使様、わたくしを導いてくださいますか」

小さな天使は、彫刻のように静かな表情のまま、占い師に右手をかざした。するとその姿は徐々に光の粒へと変わっていく。


「・・・お気を付けて」


見ていた二人が呟いたが、占い師の視線は既に遠く、彼岸の景色を映していた。

口元が僅かに動く。


「お悩みごとはありませんか。もし何かあれば占いますよ・・・」


それを最後に、光はきらきらと散らばり、占い師の姿はどこにも見えなくなった。


路地裏に静寂が戻る。


「今の言葉・・・」

「ああ、最初、私たちに言ったものと同じだった」

「あの占い師さん、本当にこの仕事が好きだったんだな」

「そうだな。町の人達が言っていた通りだ。真摯さ・・・だからこそ今も墓前に花が絶えないんだろう」


その間に、赤ん坊は女の元へとゆっくり降りてきた。翼は折りたたまれるように衣服の中に隠れる。

「お疲れさま。いや、さすがは天使様だ」

女―ハイネが笑いかけると、赤ん坊は「▽◎■☆」と聞き取れない言葉で笑い返した。

「こうしてみるとただの赤ん坊なのになあ」

「ところで、どうしてあの人は私の未来を見て戸惑っていたのだろう」

「あんたの素性に感づいたんじゃないの?」

「・・・・・・」


少女―スペアは自分の左手に手を掛ける。軽く回すと、手首が外れ、中から金属の管が数多く除いた。


「こんな風にしているところを見られただろうか」

「さあな」

「この辺りにはいなさそうだったから、あの人はロボットなど見たことがなかったかもしれない」

「あんたくらい人間そっくりなのは二人といないけどね、多分。・・・わたしのこともバレてたかも」

「ハイネもあの婦人の正体にはすぐに気づいたのだろう?」

「そうさ。お墓を見たばかりだし、それに、・・・同じだからな」


すぐ近くの壁に、ハイネは手を伸ばした。指の長い手はそのまま、壁をふっと突き抜ける。


「同じではないか。わたし、成仏はできないし・・・」


そういいながら、ギョロリとした眼を見開いたまま苦笑した。


「…さて、宿は西の方だったよな。せっかく教えてもらったし行ってみよう」

「今から泊まれる宿があるだろうか?」

「ま、なければ車で寝ればいいじゃん」

「あれは車ではなくてカプセルだ」

「はいはい」

「〒○▲」

「よしよし。行くぞ」

「ああ」

三つの声が遠ざかっていく。


誰もいなくなった路地裏に、上り始めた月から真っ直ぐに光が差していた。

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