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「吸血鬼になってしまったら元に戻らないのですか?」
「…戻りません。死んだ者が生き返らないのと同じことです」
ハイネは悲しい断言をした。
「人に戻るどころか、不死ですからあの世にも行けなくなります。天国にも地獄にも連れて行かれることはない。天使も悪魔も、吸血鬼には干渉できないといわれています。人間の魂としての輪廻とは、完全に決別することになるのです」
「そんな…」
「………」
「嘘ですよね」
ニケの声がうわずった。言葉が噴き出す。
「じゃあこの子はずっとこのままなのですか。血を吸う? そんな、そんなことを信じろというのですか」
「…どう?」
ハイネは仲間の赤ん坊にちらりと目線を送った。赤ん坊はちらりと送り返すと、吸血鬼に向き直る。
そのまま、だんだんと瞼を下ろし、半分だけ眼を開いたまま手をかざした。
しかしやがて、首を横に振りながら手を下ろす。
「やっぱりだめか」
「何ですか、今の…」
「お伝えしておきましょう」
「え…?」
ハイネは、すぐ傍の壁に手を伸ばした。
ぶつかる…と思われた腕が壁をすり抜ける。
「!?」
「わたしもこの子も、人ではありません。わたしは亡霊。この赤ん坊は、天使です」
「……」
その言葉を受けた赤ん坊はこちらに背を向け、小さな手で自分の服を僅かにずらした。白く光る背中の羽が覗く。
「天使ですから、この子は彷徨う魂や霊を成仏させる力をもっています。しかし今試したところ、吸血鬼には効かないようです」
ニケは口を開けたまま動かない。目の前の存在を飲み込むのに時間がかかっているのだ。
「これが、わたしたちの素性です、ニケさん。我々はあなたを騙そうというのじゃありません。お節介と言われればそれまでですが、ただあなたに今のことをお伝えしたかっただけなのです。どうぞ信じてください」
「……」
「そしてスペア…彼女もまた、人ではない存在で…」
そこまで言いかけて、ハイネは気づいた。スペアの姿がない。




