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はぐれ三人  作者: agdpm0w
第五話 母子
27/61

4

「…気がつかれましたか」


 目を開けた女の眼前に、赤毛に眼鏡の少女の顔があった。

「あ…私…」

板張りの床から体を起こす。そこはあの小屋の中だった。


「…あの、赤ちゃん!わたくしの赤ちゃんは?」

「あちらです」

指差された先には牙の長い赤ん坊がいた。なぜか、周囲にはぐるりと板が並べられていて、その一枚一枚には渦巻き模様が彫られている。

「?」

「ンンー…」

赤ん坊は不満げに辺りを見渡しながら座り込んでいる。身動きがとれないようだ。


「あれは…」

「すみません、ちょっと大人しくしてもらってます」

しゃがれ気味の声がした。

少し離れた場所、壁際でもう一人の赤ん坊を抱いた女が正座をしてうつむいている。

「…?」

「私はスペア、彼女はハイネといいます」

少女が横から声をかける。

「先ほど私どもで橋の先の家まであなたを運びました。なんでもハイネがあなたに話があるとかで…彼女の顔を見られますか?」

「あ…」

女は、あの顔を見て恐怖で倒れたことを思い出した。

「あの、わたくし、何と申し上げたら…」

「大丈夫です」

ハイネは軽く言ったあと、声の調子を切り替えた。

「それよりうんと大事な話をしなくちゃならないのです、今から…。このまま話しましょうかね。奥さん、お名前を教えていただけますか?」

「………ニケとお呼びください」

「ニケさん。あの赤ちゃんは息子さんですね?」

「…ええ」


「彼は一回亡くなったのでは?」


ニケははっとした顔になった。


「しばらくして急に起き上がると襲ってきた。違いますか」

「…その通りです」

「もう少し詳しい経緯をお聞きしてもよろしいですか?」


「……わたくしには…将来を誓い合った人がいました。けれど、両親に反対され、別の人に嫁がされそうになって…彼と二人、逃げ出したのです。そしてお腹には彼との子供がいましたの」

若い母は下を向いたまま、膝の上で手を握りしめる。

「わたくしたちはこの小屋にたどり着きました。ここなら見つからないだろうと…。彼は、職探しのために山を降りていきましたわ」

「……」

僅かな蓄えと木の実などで食いつなぎ、彼女はたった一人でどうにか出産した。しかし生まれた子は弱りきっており、冷たくなるまでに時間はかからなかった。

「わたくしが何日もこの子の傍で泣いておりますと、突然起き上がったのです。生き返ってくれたのか、と思いましたが、突然わたくしめがけて飛びかかってくるものですから、とっさに走って逃げて…そこにお二人がいらしたのですわ」

「……」


ハイネはその話をじっと聞き入っていた。どこか複雑な空気の沈黙が続く。

何かの虫がギイギイと鳴く声だけが聞こえていた。

やがて、ハイネはこんな言葉でその沈黙を破った。


「よく分かりました。やはり間違いなさそうだ。ニケさん、あなたの赤ちゃんは吸血鬼です」

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