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「!? あっ…」
互いにぶつかりそうになってよろける。
出てきたのは頬のこけた若い女だった。
(こんな山奥に他にも人が?)
スペアとハイネはそう思った。相手も同じだったらしく、驚いた眼差しで見つめ返す。
だがすぐに膝をつき、骨張った手でスペアの服の裾に取りすがった。
「お、お願いです、助けてくださいませ!」
「え?」
「子供が・・・」
言い終わらないうちに、同じ茂みから弾丸のような何かが飛び出した。ザッと地面にぶつかったのち、頭を上げる。
赤ん坊だった。
だが、様子がおかしい。四つん這いでこちらを睨みつける眼はあまりにも獰猛で、血の気のない顔色は明らかに死人のものだ。そして口から、長い牙が覗いている。
ハイネは凍りついた。
(この子、まさか…)
次の瞬間、赤ん坊が動いた。橙色の髪を振り乱し、飛びかかってくる。
「ヴ…ヴー!」
「!」
反応したのはスペアだった。赤ん坊の正面に飛び込むと、腕と胴をつかんで押し止める。
(強い!赤子の力ではない)
赤ん坊は暴れた。首と手足を激しく振り回している。
「スペア、だめだ!咬まれんな!」
ハイネか叫んだ。
「咬む?」
考える暇もなく、剥き出しの牙が腕をかすめる。スペアは、赤子を無理に引き寄せ、背中から羽交い締めにした。
「なんだ、この子は!」
「……」
ハイネの腕の中にいるもう一人の赤ん坊は、じっとそれを見つめたままだ。
「待ってスペア、今大人しくさせるから…」
そういいながらハイネは、茂みの向こう側に吊り橋を、さらにその奥に小屋があるのを見た。
足元にへたりこんだままの女に問いかける。
「あれはあなたの家?」
「え、ええ…まあ…」
「中に入ってもよろしいですか?」
「はい…」
そこで、彼女はハイネと目を合わせた。目の前の黒衣の女の、耳まで裂けた巨大な眼。
「――」
痩せこけた女は、声も上げずに気絶した。




