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時は遡ること一月前、スペア、ハイネ、赤ん坊の三人は、草木の生い茂る山奥にいた。
「こうも植物が多いとカプセルが使えないな。歩きづらい」
頬や手、眼鏡のレンズを次々とかすめる木の葉に、スペアが渋い顔をした。
「身体があるが故の悩みだねえ」
しみじみ言うハイネの胴体に、木の枝が突き刺さっている。もとい、貫通している。霊体の身体は万物を突き抜け、風が吹こうが、黒いローブの裾は少しもたなびかない。
「♪☆」
赤ん坊はどこか上機嫌で、にこにこ辺りを見回している。
「さっき向こうに崖崩れのあともあった。気をつけなければ」
「∮〒」
「あんたは崖から落ちても大丈夫じゃない?」
「腕や足が外れてどこかに行ったら困る」
「確かに。じゃちょっと歩きやすくしてあげようか」
と、ハイネが言うなり、近くの茂みがざっと左右に分かれた。根元から下草が倒されている。
「はい、道。どう?」
「・・・いや、素晴らしい。助かる。かつて海を割ったという言い伝えの預言者のようだ」
「へへっ、大げさ~。照れるね。ものを動かすだけならそんなに高度な魔法じゃないんだけどさ」
即席の道にスペアは足を踏み入れた。
「魔法というのは本当に便利なものだな」
がさがさと音を立てながら、一行は進んでいく。
「科学技術の結晶のあんたがそれを言うかね」
「そうだが…しかし、疑問でならない」
「なにが?」
「なぜ魔法はもっと普及しない?使っている人をほとんど見たことがない」
「使えるようになるには訓練が必要よ?」
「これほど便利なら、訓練してでも使えるようになりたい者がたくさんいると思うが」
「…ああ…うーん」
ハイネの剥き出しの瞳が僅かに翳った。
「それはね…」
そのとき、ガサガサガサという音が近づいて、直後、脇の茂みから人が飛び出してきた。




