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山。
木々をかき分けた奥の奥に、夕暮れの中、ぽつんと立つ家。
窓の少ない家の中には光があまり入らない。壁も箪笥も影法師のように黒い。
しかし目が慣れれば、ものが見えるようになる。
木でできた床の上に、赤ん坊が座っている。丸い目は、近くの箪笥から垂れ下がる衣服の紐に向いていた。
「…〒⊆*」
小さな手を伸ばしてぺしっと叩く。
ぺし
ぺし
ぺしぺし
ぺしぺしぺし
「+○」
傍らに、もう一人赤ん坊がいた。橙色の髪はまだ薄い。どう見ても首も据わらないほどの、生まれて間もない姿にも関わらず、誰の支えもなく床に座っている。
彼もまた、紐をぺしっと叩く。
ぺし
ぺし
ぺしぺし
ぺしぺしぺし
「ンー」
跳ね返る紐を追って右手を振り回す。その肌は蝋のようだ。血の色の透けない白。
「飽きない?」
傍でかかみこんでいたハイネが尋ねた。赤ん坊二人は振り向きもせずに、紐に夢中になっている。
「楽しいのかね」
「真剣だな、二人とも」
家の奥から、スペアが歩いてきた。まくっていた袖を元に戻しながら、近くに座る。
「しかしあの赤ん坊は本当に大人しくなった。あんなに暴れていたというのに」
スペアが呟く。
「空腹じゃなくなったからかもね。あと、先輩が指導したのかな?」
ハイネが笑いながら言うと、天使の赤ん坊は振り返り、えっへんといった風に胸を反らした。
「後輩ができて嬉しそうね」
「…ああ」
「どうしたのさ」
丸い眼鏡の縁に手を添えて、スペアが俯いた。
「彼女は帰ってくるだろうか…」
ひゅうと戸口で風が鳴る。
「…確かに、博打みたいなもんだっただろうね、あの人にとっては……いつになるかも分からないし、…でも、きっと帰ってくると思うよ」
「……」
「まあ、待とうよ。時間だけならいくらでもあるんだしさ、わたしたちには」
細い窓から、色硝子を通したような紫色の空が見える。
赤子らはまだ紐にじゃれついている。
その瞬間、音もなく玄関の戸が開いた。ざあっという音が風を集めて家の中に押し寄せる。
戸口に黒い人影が立った。
「!」
「ああ、ほら…噂をすれば、だ。思ったより早かったね」
人影が入ってくる。
橙色の髪の赤ん坊はそれに気づいた途端、歓喜の声を上げ、四つん這いの赤子とは思えない速度で玄関先へと向かっていった。




