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はぐれ三人  作者: agdpm0w
第三話 青紫陽花
19/61

8

 物の多い部屋に、男が一人いる。薄暗くて顔はよく見えない。


 そこに、わずかに衣擦れの音がして、ドレスの女が一人入ってきた。

 男は気づいてはっとする。


「何で今ここに来た!怪しまれるだろ」


 小声で迫ると、女はその腕にすがった。


「連絡が来ないの!成功したら必ずと伝えておいたのに」

「何?」

 袖を掴む手に力がこもる。


「どうしましょう!何かあったのよ、見られたのかもしれないわ。捕まっていたら…」

「落ち着けよ!」

 男はぐっと女の肩を押し返した。

「まだ分からないだろ。大丈夫だ。捕まってても、俺たちとの関わりがバレなきゃ、どうとでもやり用は…」

「はいこんにちはー!」

 バーンと扉が開いた。


「うわあああああ!」

「きゃああああああ!」


 腰を抜かした二人の前に立っていたのは、赤子を抱いた、ローブで全身黒ずくめの若い女であった。


「な、なんだお前は!」

「どうも、不審者でーす」

女は会釈し、抑揚のない返事を返す。


「А*★ε…☆☆」

 その胸元で赤子が呻いた。身を寄せ合う二人に冷たい目を向ける。

 黒ずくめの女は二人にするすると歩み寄ってきた。


「あれ、二人いるの…わたしはね、女の人の方に話があるんだけど」

「私!?あなたなんて知らないわ!」

「そりゃそうだよ…初対面だもの、紫陽花さん」


 廊下から差す光に浮かび上がる、空色よりも濃い青のドレス。床に広がった布の海の中心で、黒髪の美しい女が唇を震わせている。


「ね、あんたなんだろ」

「え?」

「あんただろ、魔術師を雇ったのは! 自分の婚約者を操らせて、アヴォカド家のマリイアを殺そうとしたのは!」

「な、何を…!」

「実行犯のやつは捕まったよ。あんたはそいつに口紅を渡しただろ」

「…口紅?」

「そうだよ、褒章に…あんたの私物でしょ」

「ふざけないで!」

 女の顔が歪む。


「私のものを? だれがあんな下賎な奴に!」

「じゃ、お金だけ?」

「そうよ!はした金を掴ませただけで十分喜んで引き受けたわ!」

「…」

「…あ……」

 女が自分の言葉に気づき、耳の先まで真っ青になった様を、黒ずくめは呆れ顔で見下ろした。


「口滑らしたね。やっぱりそうなんじゃん」

「ち…違う…違うの」

 何か言おうとして何も言えず、女の手首だけがうろうろと動く。


「畜生!」


 その手首を握り、男の方が走り出そうとする。瞬間、二人は見えない力に引き戻され、ビタン!と壁に貼り付けられた。


「ごまかしてもだめだよ。あのメイドは捕まったっていったでしょ。そいつが持ってたんだよ。4枚の萼の紋が入った、ボルドーの口紅」

「!」

「心当たりがあるんだね。…あと、そっちの兄さんは…その目、もしかして…まあいいや。あんたも共犯?」

「☆@♭」


 黒ずくめの女は腕の中の赤ん坊をちらりと見ると「そうみたいね」と呟いた。

 そして少しずつ、動けないままの二人から離れていく。


「そろそろかなぁ…わたしも見つかるとまずいからもう行くよ。もうみんな知ってるはずだから、逃げようなんて思わないで、お沙汰を待ちな」


 入り口から差す光を背に受けて、女の姿は影法師のように黒い。冷たく光る黄金色の眼は、震える二人の体温を奪っていった。


 その影がすっと出ていくと間もなく、ダダダッと大勢の足音が部屋になだれ込んできた。

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