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スペアはバッと顔を上げた。
ドアの向こうからバサバサ、ドタリと音がする。
声には聞き覚えがあった。
男に向き直り、右手で彼の手首近くを掴んでしばらく押さえたのち、スペアは部屋を飛び出した。
ドアのすぐそばにハイネと赤ん坊がたたずみ、そして少し離れたところに年かさのメイドが、見えない糸に服を引っ張られているようにじたばたともがいている。
「ハイネ!」
「スペア?…おっと、今はマリイアさんか」
「赤ん坊まで…どうしてここに」
「ごめん、着いてきちゃった」
「₩*◆♯︎」
「そしたらなんかあやしい人がいてさ。こいつが睨み付けてて」
「★!▲!」
「あのメイド。ドアの前でぶつぶつ言ってんの。あれ呪文だよ。話しかけたら逃げようとするから、今魔法で引き留めて…」
そのとき、またメイドが小声で何か呟いたかと思うと、脱兎のごとく走り出した。
「げっ、解呪された!嘘だろ?」
「任せろ」
といった瞬間、スペアが右腕を前にかざす。掌から飛び出した何かが直撃し、メイドはバタリと倒れた。
「…撃ったの?」
「眠らせただけだ」
「いや、容赦ないな…」
「あのメイドが扉の外で魔法を使っていたんだろう?私が見舞われた出来事に関係しているに違いない」
「そうだ、中で何があったの」
「殺されそうになった、あの親戚とかいう男にな」
「ええっ!?」
「▲!」
「だが明らかに様子が変だった。顔が土気色の人間とは思えない、俊敏な動きをしていた」
「そいつどうしたの」
「同じく眠らせたよ」
スペアは右の親指に仕込まれた針を見せた。
「…あれじゃない?こいつがさ、メイドのふりして親戚さんを操ってさ。魔法使いが見でもしなけりゃ、呪文だなんて分かんない、メイドが控えてるだけだと思うし」
「確かにな…」
「それにこいつは悪人に違いない。見なよ」
赤ん坊は倒れた女を不愉快そうに睨んだままだ。
「この天使様は悪意に反応してるのさ」
「ふむ」
三人は動かないメイドに近づいた。うつ伏せに倒れたそのポケットから、小さな金色の筒が覗いている。
「魔法の道具か?」
「いや…」
ハイネが手招くと、筒はすうっとその手元まで飛んできた。スペアはそれを持って見回すと、蓋を外す。
「…口紅?」
「!」
ハイネは何かに気づき、ぐっと眉を寄せた。
「スペア、今すぐ人を呼んでくるんだ」
「え?」
魔法で口紅が飛んで、元のポケットに戻る。
「どうした」
「今あったことを説明して、こいつが口紅持ってるのを見せるんだ。早く」
「…大勢に?」
「そうだね。わたしたちも…ちょっと行くところがあるし、あとで合流する」
「…?…分かった。じゃあな」
「ああ。行こう」
「△☆!」
そして、彼らは別れた。




