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はぐれ三人  作者: agdpm0w
第三話 青紫陽花
17/61

6

 スペアは青年の言う通りに歩き、一つの部屋に到着した。室内のソファに腰を沈めた彼はようやく安堵の表情を浮かべる。


「ありがとう…きみはマリイアだね」

「はい。ご挨拶が遅れまして申し訳ありません」

「気にしないで」


 室内は会場とうってかわって静かであった。


「僕は体が丈夫でなくて、夜会では休む部屋を用意してもらうんだ」

「そうですか…」

(そこまでして出席しなくてはならんとは、貴族も大変だ)


「水を取ってもらえるかな」

「はい」

(これ以上容態が悪くなったときのために、誰かを呼んだ方が…)


 水差しに手を掛けたところで、男はぽつりと言った。


「きれいになったね」

「は?…ありがとうございます」

「大人しい格好でしか見たことがなかったから驚いたよ、最後に会ったのもずいぶん前だ…でも、きみはきっと美しくなると思っていた、幼い頃から」

「…光栄です」

(何だ?一体)


「きみはよく手紙をくれたね。病弱で何もできなくて、卑屈になる僕を励ましてくれたのは、いつもその手紙だった」

「いえ…」

(文通?まずい、手紙の内容まで把握していない…)


 次の言葉を待って身構える少女を、椅子の上から見つめ返し、彼はうっとりと微笑んだ。


「きみは僕にとって特別だ。許嫁よりずっと」

「!?」


 スペアは目を見開いた。

「彼女とは家同士の取り決めによる関係でしかない。叶うならきみがいい。ずっと待っていたんだ、こうやって二人きりになれる日を…」

(何だと…)

「ぼくらは親戚ではあるけど遠縁だから、その点は問題ない。でも、この家に産まれた以上、きみと結ばれはしない」


 青年の瞳に涙が浮かんでいる。


「だからどうか受け入れてほしい。僕らの仲を…永遠のものに!」


 言うが早いか、青年はスペアに飛びかかり、上着の内側から出したものを振りかぶって突き刺…


せなかった。


ダァン!


「うっ!」


 ドレスが翻る。

 スペアは男の右腕からそれを叩き落とし、瞬きもできないほどの速さでその体を床に引き倒した。

 転がったのは、大人の二の腕ほどの長さはあるナイフであった。


「どういうつもりだ貴様!さっきのも仮病か!」


 芝居をかなぐり捨てて睨む。締め上げる手に力を込めると、男は真っ青な顔で壊れたぜんまい人形のようにがくがくと震えた。


(何だ…?何かがおかしい)


 そのとき、部屋の外から声がした。


「メイドさん?何やってんの?」

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