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一方、夜会は歓談の時間となり、スペアはひとしきり話しかけてくる人々の相手をしたところであった。より本人に似せるため、喉のダイアルをいじり、いつもより高い声で話す。男性が多かったが、ほとんどの人物が愛想よく、評判は上々のようだと感じられた。
(ひとまずは成功のようでよかった)
外はもう暗い。窓に着飾った自分の姿が映る。着たことのない可愛らしい色の服…着替え終えてすぐ「おきれいじゃないですか」と侍女が差し出した鏡で見たその姿、あの自分がきらめくシャンデリアの下にいると思うと、心臓が踊るような気持ちにならずにはいられなかった。
(不思議な心持ちだ。高揚というか、懐かしさすらあるような・・・いかんな、私ときたら…本来ここにいるべき人は体を壊しているというのに、浮かれてしまうなんて。私は代替品なのだから)
そう思ったとき、いつの間にか男爵が自分より多くの人間に取り囲まれていることに気づいた。小柄なため、ほとんど姿が見えない。
(娘本人より親から挨拶を、という考えだろうか)
などと考えていると、声がかかった。
「成人おめでとうございます、アヴォカド家のお嬢さん」
「!」
振り向くと立っていたのは「青紫陽花」であった。舞台から降り、貴族たちの話に加わっていたらしい。
近くで見るとドレスは小さな花があしらわれており、まさしく紫陽花のようだ。背は高いが、人を威圧しない優しい眼差しは、華やかすぎる辺りの空気を和らげる。
「ありがとうございます」
「スタニズラオからあなたのことはよく聞いているわ。夜会を楽しんでくださいね。今日はあなたの人生においてもっとも良き日となるでしょうから」
「はっ、もったいないお言葉」
「彼ももうすぐ来るはずよ。話してあげてくださるかしら」
「もちろんでございます、ぜひ」
スペアが頭を下げると、彼女は微笑んだまま立ち去った。青色が遠ざかる。
(近くで見るとますます美しい。わざわざ私に話しかけてくるとは律儀な方だ…)
感心するスペアは、自分の挨拶がつい軍人のようになっていたことにも気づかないでいた。
(スタニズラオというのは許嫁の人だな。そうだ、挨拶をしなくてはいけないと言われていた)
垂れ目に正装の男を探して、辺りを見渡す。紫陽花のドレスからそう遠くないところに、
(あ、いた…)
が、彼の顔色はどことなく青い。スペアが様子をうかがいつつ近づくと、身体がふらりとよろめいた。
(危ない!)
とっさに腕を差し出す。スペアの腕は倒木でも支えるように、彼の体を下から押し止めた。
「きみは…」
「失礼しました。お久しぶりでございま…」
「いや、いいんだ…。すまないが、部屋まで連れていってくれないか…」
「部屋?どちらの」
「僕の休憩室に…あの廊下から…」
「誰か他にも人を」
「いいや、すぐに休みたい…早く」
「分かりました」
彼女は仕方なく青年の肩を支え、賑やかな会場を離れた。




