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成人したばかりの貴族たちの入場は粛々と行われたが、スペアが姿を見せると、会場が一瞬ざわりと動いた。
(なんだ…まさかバレたのか?いや、ここで堂々としていなくてはかえって怪しい)
参加者の反応は、このスペアの懸念と真逆のものであった。
「なんて美しい…一体どこのご令嬢だ」
「アヴォカド家だ。貴族とは名ばかりの貧しい家だぞ」
「娘は人前に出ず、同年代の友人付き合いもないと聞いていたが…ここまでとは」
「可憐で繊細な佇まい、まるで赤い紫陽花の花のようではないか」
当の美少女は神妙な顔のまま、既に入場した新成人の集団に紛れ込む。
「評判は上々だな!やるじゃん、スペア」
「-○∂■」
窓の外からその様子を覗く影が囁きあった。馬車の上に乗ってちゃっかり着いてきたハイネと赤ん坊である。
「あんたまでパーティーを見たがるとは思わなかったけど…」
「◎∞*▲!」
「面白い?」
「♭︎♪︎!」
そのとき、会場から一際大きなどよめきが上がった。入場が終わり、大広間の奥の舞台に主催者一族が姿を表したのだ。
大きく掲げられた布に刺繍されているのは、四枚の萼片を持つ花の紋だ。
ハイネの大きな眼は、演説を始めた当主のカフスボタンを捉えていた。同じ花の紋、カニッツァロの家紋であろう。
「今、みんなが見てるのは当主のおじさんじゃなくて…娘さんだな。あの人が例の青紫陽花かー」
「%≦」
挨拶を述べる当主の横に青いドレスの娘が立っている。潤いのある黒髪は腰まで流れ、長い睫毛に猫のような目、すっと通った鼻筋の美女は、口元に控えめな笑みをたたえ辺りを見ていた。
「大人っぽいね。お化粧も綺麗だな。瞼に薄いけど金色が差してある。口紅はボルドーか」
「◎$♯︎?」
赤ん坊が窓近くのテーブルを指差した。中央に葡萄酒のボトルが置かれている。
「あ、分かる?そう、ボルドーはちょうどあんな色だよ、茶色がかった赤…何か、あの人といいスペアといい、この国では美人を紫陽花に例えるみたいね」
「◎〒」
「青紫陽花も許嫁がいなけりゃ引く手数多なんだろうけど」
娘の隣には色白で垂れ目の男が寄り添っていた。彼の傍にいる親兄弟とおぼしき人々も皆垂れ目である。
「あのお兄さんが親戚さんね。スペアの方見てんな、ちゃんと気づいてるみた…」
「★□」
「ん?」
赤ん坊は窓を見てはいなかった。あからさまな嫌悪の表情で一点を睨んでいる。
視線の先では年かさのメイドが、使用人専用であろう扉から宮殿に入っていった。
「…∧■、⊆◎*」
背中の羽根をうごめかせたかと思うと、赤ん坊は浮き上がり、小窓を通って建物の中に入っていく。
「あっ、待て!」
ハイネは壁をすり抜けてそのあとを追った。




