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しばらくのち、一行は屋敷の客間で向き合って座っていた。清潔ではあったが、建物はかなり古い。調度品もほとんどない、ごく質素な部屋だ。臙脂色の絨毯が敷かれた部屋は、灯されたランプで薄明るかった。
「スペア様とハイネ様ですね。旅のお方でしたか。私はアヴォカド男爵家が当主、フィリッポ・アヴォカドです。どこからお話しすればよいでしょう…」
外套を脱いだ男はますます痩せて見えた。その口が開く。
「私にはマリイアという娘が一人おりまして、今年で十五になります。妻亡き後、私と使用人たちで育てて参りました。この国では十五歳になった貴族は、成人の証としてある社交パーティーに参加し、皆様に挨拶をしなくてはなりません。国のほとんどの貴族が参加する重要な夜会なのです」
彼は一息ついて続けた。
「この夜会が今夜行われます。しかし昨日、娘は突然高熱を出して寝込んでしまいました。医者は命に別状はないといいますが、とても出席はできそうにありません」
「それは大変だ。しかし我々に何ができるのでしょうか」
スペアは深刻な顔で尋ねる。
男はしばし床を睨んでいたが、拳を握りしめ、頭を下げた。
「スペア様、あなたは私の娘に瓜二つです。どうか娘の代わりに夜会に出席してくださいませんか」
「何ですって?」
「え?」
「#@☆!」
聞き手の三人はそれぞれ声を上げた。
「ご覧ください」
男爵は角の丸い写真を差し出す。写っているのは窓際で読書をする少女。赤い巻き毛に、読書用と思しき眼鏡、目つき、鼻筋、口元、何もかもが、
「私だ…」
「すごいや。本人としか思えんな」
「はい、こんなことをお願いするなど、無理は承知ですが・・・あなた様にしかお願いできないと、お見かけした瞬間に思いました。それに、参加できなければ娘の将来に大きく関わります」
「なぜですか」
「先ほど申し上げた通り、国中の貴族が集う場です。情報を得たり、見合いの場になったりする会としては最も重要です。さらに不参加となれば貴族界からの印象は悪いものになります。特にパーティーの主催者であるカニッツァロ家は高位の貴族で、不興を買えば家の出世はまずあり得ない上、悪ければ取り潰しにされてしまいます。この家のような貧しい貴族などは…」
「それは大変ですね」
「カニッツァロ家にはもうすぐ次期当主となる一人娘がいます。三年前に成人したばかりです。大変な美貌の持ち主で、青い紫陽花と呼ばれるほどです」
「紫陽花?」
「ええ。気品と教養を兼ね備えた、知的で物静かな方です。…この方には許嫁がいますが、彼は私どもの親戚なのです。娘が小さい頃に遊んでくださったり、…彼ももちろん主催者側で夜会にいます。ご挨拶をしないわけには参りません…」
「…」
「スペア様、本当に夜会の一日だけで結構です。見ての通りあまり裕福ではありませんが、きっとお礼もいたします。お願いします!」




