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「紫陽花は土の成分で色が変わるんだよな」
雨上がりの快晴、道端の植込みに咲く紫陽花を見ながらハイネが言った。
「*■△○」
「そうなのか」
「うん。同じ品種でも土壌によって赤になったり青になったりするらしい。色によって花言葉なんかも違うよ」
「知らなかったな」
植込みの紫陽花は鮮やかな青色であった。花弁に残る透明な水滴が美しい。
「赤い花を咲かせたければ石灰なんかをまくんだってさ」
「ほう」
「#〒◎~!」
赤ん坊が濡れた花に手を伸ばす。その指の先にあった一輪がみるみるうちに桃色に染まった。
「…天使様の奇跡の前ではそんな工夫も不要なんだな…」
裕福な人間が暮らしているであろう屋敷の間を縫うように、白い石畳の道が続く。花壇があちこちにあり、紫陽花もその他の花も、瑞々しく咲き誇っている。
今の三人がいるのはそんな街であった。
「あっちの紫陽花はもっと青いなあ」
「本当だな」
彼女たちが歩みを進めようとしたときだった。
「お待ちください!」
大声にスペアがまず振り向く。
そこには鼠色の外套を着た、やつれて小柄な男が、すがるような目を向けて立っていた。
「お願いします、どうしてもあなた様にお頼み申し上げたいことがあるのです!」
「え?」
「娘のためなのです、お話を聞いてくださいませんか」
「…娘…?」
「えっ、なになに」
割り込んだハイネの顔を見上げた男の視線が、巨大な眼とぶつかる。
「ギャアアア!」
彼は絶叫して尻餅をついた。
「あっ…服濡れますよ、大丈夫?」
「も、申し訳ありません。失礼な態度を…」
男ははいずるようにして立ち上がり、小声になって続けた。
「…お話だけでも聞いてください。私どもをお助けください、どうか、どうかお願いします…」




