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馬車の修理を。

「必ず、必ず幸せにするよ」

そう言って貴方は私を捨てた。


私は3つ下の弟と2人で山の奥、

家とも言えぬボロ小屋でひっそりと暮らしている。

親は私が7歳の頃に消えてしまった。

新しく家族を作って私たちを捨て出ていってしまったの

だろうか?黒猫のように、死ぬ時を察して

愛する家族の前から消えたのだろうか?

そんなこと、今となってはどうでも良い。

消えた理由を考えたって、生きていけないと気づけたから。私は弟と共に生きていくのだ。

2人だけで生きていくしかないのだ。


トントン。


「ルイ?」

弟のルイは今、明日の食事となるものを探しに

山へと出ている。外に置いてある日時計を

窓を通して見ると、短い針は11を指していた。

10時ほどに家を出ていったからまだ1時間程度しか

経っていない。いつもなら少なくとも3時間程は

戻ってこない。帰ってくるのには早すぎると思い、

私は警戒しつつドアノブに手をかける。


ギィー。


古びた扉が下手なヴァイオリンのように音をたてて動く。

そこに立っていたのは弟ではなく、弟よりも随分と

背の高い男だった。男は煌びやかな飾りをつけた

真っ白い服を着ていた。


「突然すまない、近くで馬車が壊れてしまったので、

工具を貸していただけないだろうか。」


男は丁寧に胸と背中に手を当てながら軽く腰を曲げた。

頭が下がったので、艶のある紺色の髪が

サラッと整った顔を隠す。


「…わかりました。ですが、我が家にある工具はボロく、

力加減の分かる私にしか取り扱えないものです。なので、

馬車の修理は私にやらせていただけないでしょうか。」


見ず知らずの女に修理を任せるなど、そんなこと

普通はしない。普通に考えて、信頼できないだろう。

私は遠回しに『私たちに関わるな、去れ』と

言っているのだ。伝わっているだろうか。

しかし男には伝わらなかったようで、

キラキラとした顔をこちらに向けて微笑んだ。


「お願いしても良いだろうか。ありがとう…恩に着る。」


私は素直に男を追い返さなかったことに少し後悔しながら、

『少し外へ出る、帰ってきたらお昼ご飯を食べていて』と

弟へ置き手紙を残してから、おんぼろな工具を持って

馬車のある方へ着いて行った。


歩いて10分のところに馬車はあった。

私たちの住んでいる家の近くには馬車が通れるような道が

ないと思っていたので、どこへ行くのかと思ったら、

案の定、山道ではなく獣道というような所であった。

草木が馬車の進路を遮断している。

なぜこのような道を通っているのだろうか、

こんな綺麗な格好をした男が。


「ヘル様!」

私と同じような背丈の女の子が男に抱きつく。


「ごめんね、エマ。」

男は女の子を髪の毛に艶を出すかのように撫でる。


「ヘル様、この方は…?」

女の子は私へと目線を送る。

瑠璃色の瞳に見られて身体が変に緊張し、

手に力が入ったことで工具箱がガタッと音を鳴らす。


「アリアさんだ。我々を助けてくれるんだ、

エマも挨拶しよう。」

エマという女の子は私に深深と頭を下げて何度も

感謝の意を伝えてくれた。私は先程まで彼らを

救おうとなんて考えていなかったから、

罪悪感が私を襲った。いたたまれなくなって、

私は早急に馬車を修理する準備を始めた。


車輪が外れていたのでそれを元に戻し、できるだけ

強化しておいた。どこまで行くかは分からないが、

きっと人里へおりるぐらいまでだったら耐えるだろう。


「終わりました。」

私はフゥと息を吐いて額の汗を拭う。

家の修理をよく行うので修理には慣れているが、

流石に工具が使い物にならなくなってきたと感じた。

2人は感謝の言葉と高級そうな加工食品をくれた。

滅多にお目にかかれないパンやチーズを抱えた私は

つい口角を上げてしまう。

弟に食べさせてやりたいものばかりだ。


「また礼に伺います。次はもっと美味しいものを

持ってきますよ。」


男は女の子にやるように私も撫でた。

久々に感じた大きな手からの温もりに、

つい心臓が跳ねた。心地の良い手だった。

2人は動くようになった馬車に乗って先を行った。


さぁ、私も戻らなくては。

それにしても、キラキラとした2人だったな…。

でも私にはもう縁の無いことだ。

礼に伺うとは言っていたものの、山奥にあるのだ、

我が家はきっと簡単には見つけられないだろう。


『戻らなくては……。』


私は少し赤く染った頬を意識しながら帰路についた。

初めて小説というものを書き、投稿しました。ここまで読んで頂きありがとうございます。もしよろしければ、この後もお付き合いいただけると幸いです。

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