世の中の魔術はステップ実行でした
1.極度のストレス、混じる過去世の知識
「黒板にかいた構築式に従って、水を生成してください。10mlできたら合格です。」
おれ、タクト。魔術学園の一年生、16歳。魔法技術資格を取るために公立の学校になんとか滑り込んだ。ここ、エアリッド魔術学園では魔術の歴史や魔術構築式に必要な魔法言語、出来合いの魔術紋による実践授業などがある。
今やっているのは実践授業で、
魔術紋を強くイメージして、詠唱する。指先に展開される魔法陣の外縁部が光り、正常に
回路が動作し始める。神秘的な光が構築式の回路をなぞっていく。そう、ゆっくりと。
(イライラする!)
──《マナから湧きだしたる水よ、ここに集え、マナからわk……》
詠唱によって対応する魔法陣の一部が光る。
(ちょっ、魔素をちょっと取り込んだら次の処理とかありえないっしょ、魔素の取り込み再開は重たいんだから『バッファリング』しろ……よ?)
なんだ、バッファリングって、自分で何を言ってるんだ?
──《マナから湧きだしたる水よ、ここに集え、マナからわk……》
(魔素から水に変換した結果に対して『バリデーション』とか、意味不……明?)
俺たちが受けている講義では、こんな言葉は出てこない。何なんだ?!
まさか、知らないうちに……変なものでも食べてしまったのか!?
2.魔法構築式の謎
(まぁ、落ち着いて考えれば、これらの知識をこの授業を切っ掛けに思い出した。)
(魔術紋はアルゴリズム、実行形式は詠唱することによるステップ実行だな……)
用いられているアルゴリズムが、もっさりしている。同一処理が複数箇所でてくる。あぁ、詠唱でよく同じワードが繰り返されるのは、このせいか。
(せめて、スレッド処理と詠唱なしで処理が動かせれば……、詠唱によるステップ実行、これが現実なのか?)
3.伝説の魔術師
(授業で出てくる昔話の無詠唱魔法や即時詠唱、多詠唱魔法が存在するなら、失われた構文が有るってことじゃないか?)
ステップ実行で運用してるってことは、教導用の技術のみ、継承されたのか。文面で何か残ってないのか?魔法構文の定義さえわかれば、上(首席)も目指せるのになぁ。
早口言葉が上手い奴が上位って、ありえない。
4.ヘルプ
(あー、ヘルプでも見れればなぁ。)
──「マナより湧きいで『バグ』!キャー」
(なんだ?虫に驚いて暴走したのか。大したことはなさそうだ……。バグ、バグ、デバッグ)
「デバッグ?」
思わず呟いた瞬間、構築式のまわりに、別の表示が出てきた。デバッグと言って出てきたものだ。
(何かヒントになるんじゃないか。)
……
(上位階層の定義とか内容の表示とか見れるなんて、デバッグすごいな!あ、あった、『スレッド』だ。『繰り返し処理』に『条件分岐』も記載がある!
『関数定義』が詠唱短縮か。俺は今日、伝説になる!!)
5.本物の威力
(魔素の取り込み部分は術式起動後に裏方で並行して動かして、主系統は溜まった魔素を一定量ずつ水に変換っと。命名《一杯の水》)
イメージのなかで構築した式に命名したことで自身の記憶領域に魔術紋が定着する。強くイメージしなくても思い出せる。
術式を起動するために、《一杯の水》を意識しながら魔力を指先に流し込む。スッと現れる構築式は最初から全回路が光り、詠唱しなくても作動していることが伺い知れる。一定量が出るようにしていたからトラブルもなく、水が涌き出る。使い終わった魔術紋は自動的に消える。
席を立ち、書類を読んでいた先生にコップ一杯の水を提出する。
「真面目にやりなさい。そんなに早く終わらないでしょ。どこから汲んできたんだ?」
と、俺を注意した。
上手くいかないものですねー。