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子供になったお母さん  作者: 柴田盟
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修業

 顔面に駒木根のボールが直撃して、奴はわざとこんな事をしたのだ。


 僕は涙を堪えながら必死だった。


 しかも鼻血まで出ている。


「委員長の高岡さん。旦那が俺のボールを受けて鼻血を出してしまったよ。とにかく保健室につれて行かないとまずいんじゃないの?」


 周りの生徒達はそれを面白がる様に僕達を見つめていた。


 高岡さんは委員長だから、僕を保健室まで連れて行くことになっている。


「大丈夫?純君」


「ここで名前を呼ぶのはあまり良くないかもしれないね」


「それもそうねって、そんな事を言っている場合じゃないでしょ。純君、鼻血を出しているじゃない」


「大丈夫だよ高岡さん。僕は一人でも保健室に行くこと出来るから」


「私は委員長よ。委員長としての事をこなさないといけないんだから」


 僕は怒気を込めて「僕は大丈夫だよ。とにかく高岡さん。僕は一人で保健室に行けるから、ちゃんと体育の授業を受けなよ」


 そう言って僕は高岡さんと保健室に行かず一人で保健室に向かった。


 何か高岡さんの優しさが辛くなってきた。


 僕は一人で保健室に行き、保健室の先生の藤田先生と言う若い二十代ぐらいの人に鼻血の手当をして貰うことになった。


「鼻血を出しているじゃない」


「ドッチボールの時に偶然に顔面に当たってしまって」


 本当は駒木根がわざと僕に顔面目がけて投げてきたのだが、偶然と言うことにして置いた。

「とにかく下を向いて居ると血が出てくるから上を向いていなさい。それでテッシュで鼻の穴を塞ぐから」


 僕は言われたとおり、上を向いてテッシュで鼻の穴に入れた。


 鏡を見てみると、僕の鼻は青く腫れていた。


「とにかく高橋君、横になって居なさい」


 僕は言われたとおり、横になっていた。


 僕とお母さんはこの四月に引っ越してきたのだが、僕は全然、クラスにはなじめていない様子だった。


 こんな腫れた鼻を見たらお母さんは悲しむかもしれない。そんなお母さんに僕は心配をかけたくない。それに高岡さんの優しさが僕の胸を貫くように辛かった。


 しばらく横になっていると、担任の篠原先生が保健室にやってきた。


「おいおい、高橋大丈夫か?聞いたぞ、駒木根の奴にわざと顔面に入れられたって高岡が言っていた。それに駒木根に高橋にちょっかいを出しているって言っていたが本当か?」


 高岡さんめ、何でそんな事をいちいちチクったりするんだよ。そう篠原先生は言って僕は「はい」と答えるしかなかった。


「高岡委員長、お前の事を酷く心配していたぞ」


 本当に高岡さん余計な事をしてくれるよな。


 でもそれはありがたい事なんだよな。


 今日も朝、僕が心配で家まで迎えに来てくれたし、後でお礼と共に余計な事はしないでくれと言っておくことにした。




 ★




 とりあえず給食の時間になり僕は教室に戻ることになった。


「あっ、高橋君。大丈夫だった!」


「大丈夫!」


「高橋君?」


 僕はそれだけ言って高岡さんとはもう口をきかない事にした。


 そしてホームルームが始まり、今日の出来事を駒木根は先生に命令されて僕に謝るように言った。


 すると駒木根は渋々だが、「ごめんなさい」と僕に謝ってきた。


 こいつは反省をするような奴じゃないと僕は思っている。


 また何か隙があれば何かをしでかすと僕は思っている。


 人をいじめるのってそんなに楽しいのかな?


 僕には想像できなかった。


 何が楽しいのかと。


 そんな事を思いながら下校していると後ろから高岡さんが走ってやってきた。


「純くーん。待ってよ」


「どうしたの高岡さん」


「純君。今日は大丈夫?」


「大丈夫だけど」


「そう良かった。じゃあ、今日は純君遊べる?」


 これは断った方が良いんじゃないかと思ったが、なぜか断れる自信がなく、僕は「遊べるけれど」


「じゃあ、私の家純くんの家の近くだからランドセル置いてきたら、純くんの家に向かうから」


 本当に僕と高岡さんが付き合って居るみたいじゃないか。こんな事をしているとまた、いじめの的になってしまうぞ。


 先ほど高岡さんに遊べないと言ったら、酷く悲しむだろうと思って、断ることが出来なかった。本当に自分が情けない。


 僕が帰ると、お母さんがやってきて「純君お帰り」と言って僕の顔を見ると驚いた様な顔をしていた。


「どうしたの純君、その鼻、腫れているじゃない」


「ちょっとドッチボールで顔面に当たっちゃってさ」


「とりあえず、それは事故だったんでしょ」


「うん」


 と嘘を言っておいた。もし本当の事を言ってしまったら、お母さんは凄く悲しむし心配もする。


 そんな時だった。玄関からピンポーンと音がして早速高岡さんが遊びに来たことが分かった。


「はーい」


 とお母さんは言ってドアを開けると高岡さんだった。


「あら、高岡さん。いらっしゃい」


 僕は何となく無性に嫌な予感がした。


 もしかしたら高岡さん僕が駒木根にわざと顔面にヒットさせた事をチクるかもしれないと思って口封じをしようとしたところ。


「ねえ、高岡さん。今日純君がドッチボールで顔面にボールが当たったって本当?」


「本当です。それに駒木根の奴、本当にわざと顔面にクリーンヒットさせたんですよ」


「純君、事故じゃなかったの!?」


 僕はお母さんの怒りを感じた。お母さんを怒らせるととんでもないことになることを僕は知っている。お母さんは少林寺拳法四段の持ち主だ。


 でも今のお母さんは子供で少林寺拳法四段でも、大したことは出来ないであろう。


「純君、話に答えなさいよ。その駒木根にドッチボールで顔面にわざとやられたんでしょ」


「うん」


 と僕は答えた。


「絶対に許さない。その駒木根って奴、お母さんがぶっ飛ばしてあげる」


「お母さんは黙っていて。僕はお母さんに手を借りるほど弱い人間じゃないよ」


「じゃあ、今まで通り、その駒木根って奴にやられてしまうわよ」


「そんな事は分かっているよ。でもお母さんは黙っていて、それにその姿で人前に出たら世間でどんな風に思われるか分からないじゃない」


「・・・」


 それもそうだと思って、お母さんは黙っていた。


「とにかくこの件に関してはお母さんは手出しはしないでよ」


「そう言う訳にはいかないでしょ。あなたいじめられて居るのよ。それが分からないの?」


「僕はお母さんに守られる様な存在にはなりたくない」


 そこで高岡さんが、


「純君は充分にお母さんに守られて居るじゃない。あなたはお母さんの子供でしょ。親が子供の事を心配しないなんて、そんな事はあり得ないと思うよ。とにかくお母さんに任せて見たらどうなの?」


「・・・」


 確かに高岡さんの言うとおりだと思って僕は反論する余地すらなかった。


「純君、とりあえず、そんなにお母さんの手を借りたくないなら自分で強くなって、その駒木根をぶっ飛ばしてあげなさいよ。お母さんが少林寺拳法で学んだ必殺技を教えてあげるから」


「必殺技って?」


「簡単な事よ。喧嘩の仕方お母さんが教えてあげる。こう見えてもお母さん。少林寺拳法でジュニア大会に準優勝をした事があるのよ。それに高岡さんにも教えてあげる」


 と言うことで僕と高岡さんは少林寺拳法をお母さんに習う事になってしまった。


 お母さんに修行をして貰うのか?それも良いかもしれない。


 早速胸元を捕まれたら、どう返せば良いのか僕と高岡さんは習うことになった。


 とにかくお母さんは喧嘩は相手の体制を崩したら勝ちも当然の様に言っていた。


 これなら駒木根の奴にやられても大丈夫かもしれないと思った。


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