いじめって人間の本能だよね
何か暖かいものに包まれているような気がしている。
何だろうこの感触は、本当に暖かくて安心してしまう。
そんな時、ジリリリリ!とけたたましくベルの音が鳴った。
どうやら目覚まし時計だった。
朝になってしまったみたいだ。
それよりもこの心地の良い感触は何だろうと思って見てみるとお母さんが僕を抱きしめていた。
「ちょっとお母さん。朝だよ。何、人の布団に入って僕に抱きついているの?」
「だって純君を起こそうとしたら、全然起きないからこうして、お母さんが抱きしめて起こしに来たんだよ」
逆に何か気持ちよかったなんて口が裂けても言えない。
「今日から月曜日、とにかく朝ご飯出来ているから、まず顔と手を洗って来なさい」
「はーい」
お母さんに言われた通り僕は顔と手を洗って食堂へと向かった。
今日のメニューはハムサンドに、目玉焼きにサラダだった。
「純君、朝ご飯はしっかり食べていくんだよ。そうしないと頭がぼんやりとしてしまうからね」
僕はお母さんが作ってくれたハムサンドが大好きだった。
「純君コーヒー飲む?」
「うん。牛乳を入れたコーヒーで」
「はいはい」
そう言って牛乳を温めて、コーヒー牛乳の出来上がりだ。
僕はお母さんが作ってくれたコーヒー牛乳が大好きだ。
このフレンチトーストも目玉焼きもサラダも、みんなお母さんのお手製の物で僕は大好きだった。
僕がお母さんの料理を食べているとお母さんはニコニコして僕の顔を見つめてくる。
「何、お母さん」
「純君がお母さんの料理を嗜んでくれてお母さんは嬉しいだけだよ」
そんな時だった。
ピンポーンとベルの音がした。
こんな朝早くから誰だろうと思ってお母さんは出た。
「あら、高岡さん」
「純君を迎えに来ました」
「純君なら今、朝ご飯を食べているわ。とりあえず、純君が準備するまで中で待っていなさいよ」
何で高岡さんが僕を迎えに来たのだろう?
「ヤッホー純君」
そう言って入ってきたのは高岡さんだった。高岡さん、今日はお洒落であった。白いフリルのついた白いワンピースを着ている。そんな高岡さんに僕の胸が鳴り響いた。
「あれー純君何見つめているの?そんなに私の姿にドキッときちゃった?」
「もー来るわけないじゃん。って言うか何で高岡さんが家に来ているの。それに今日は学校だよ」
「そうよ。学校だよ。委員長として純君がしっかりしていないか見に来たんだよ」
それに高岡さんは水色のランドセルに学校に行く様の黄色い帽子を被っている。
高岡さんが来てしまったなら急がないといけないと思って、急いでご飯を食べないと。
「純君、そんなに急がなくても良いよ。まだ登校時間にはまだ間に合うから」
高岡さんは僕の隣の席に座っている。
お母さんは高岡さんにコーヒー牛乳をご馳走した。
「いつもありがとね。それと私がこんな姿になってしまった事は高岡さんしか知らないからね」
「はい、私はこう見えても口が硬い方ですから」
本当かな?とにかく高岡さんが来てしまったんだ。一緒に登校したらまた男子や女子に何を言われるか分からない。高岡さんは良くても僕が迷惑だ。
とりあえず高岡さんを待たすわけにはいかないので、朝食を食べてパジャマから水色のトレーナーに紺のジーパンに履き替えた。
そして自分の部屋に戻って、忘れ物はないか確認してランドセルを背負ってリビングにいる高岡さんのところまで行った。
「高岡さんお待たせ」
「じゃあ、行こうか純君」
そう言って、高岡さんと玄関に行くとお母さんが僕のほっぺにチューをしてきた。
やばい、高岡さんに見られてしまった。
「お母さん。何て事をするの?」
「あー純君、高岡さんの前だからと言って、凄く恥ずかしがっているんでしょ」
まさか、高岡さんの居る前でチューをしてくる事は予想がつかなかった。
高岡さんはそんな僕を見て、目を細めて僕の事を見ていた。
「高岡さん。この事は昨日のプリチュアと同じようにクラスでは極秘にしてください」
「大丈夫だよ。純君。私も小さい頃、お母さんにチューをして幼稚園に行った事があるから」
僕は幼稚園児として高岡さんは見ていないのか?さすがに心が萎える。
高岡さんと一緒に登校することとなり、学校の近くになると、僕は高岡さんから距離を置いた。
「どうしたの?純君。もしかして私達がカップルとか言われるのがそんなに嫌なのかな?」
「そうだよ。嫌に決まっているじゃん。高岡さんと一緒に登校しているところを見られたら、クラスの人達に何て言われるか分からないじゃん」
「まあ、それもそうね。じゃあ仕方なく距離を置いてあげる」
そう言って高岡さんは僕と距離を置いてくれた。
そんな高岡さんと距離を置きながら学校に向かって到着すると靴から上履きに履き替えて、教室へと向かった。
教室に向かうと僕の事をニヤニヤとした笑みを浮かべた生徒達がいた。
また僕をからかうのだろう。そんな事をして面白いのかな?
そう思って黒板を見ると、『高岡と高橋はカップルです』と大きな字で書かれていた。
僕はそれを見て泣きそうになってしまった。
そこで高岡さんが「これはちょっと酷いんじゃないの?」と言って黒板消しでそれらを消した。
「ヒューヒュー高岡と高橋は出来ているんだろ。将来結婚する中なのだろう」
周りの生徒達にそう言われて僕は無性に悲しくなってきて、ついには涙を流してしまった。
「あーあー泣いちゃったよ。高岡、慰めてあげなよ」
「あなた達こんな事をして何が楽しいの?」
高岡さんは壇上に立って、クラスのみんなにそう言う。
「だって高岡と高橋出来ているのだろ」
「出来て何ていないよ。とにかく高橋君をいじめるなら私はあなた達を許さないんだから」
「何が許さないんだよ」
「あなた達こんな事をして楽しいの?」
「楽しいよ」
男子の中で喧嘩も強くて強面の駒木根が言った。
駒木根の奴、僕の事を目の敵にしている。
僕は机に突っ伏して涙を流していた。
「高橋君、そんな事で泣かないの」
僕の隣の席の高岡さんがそう言って僕の事を慰めてくれた。
駒木根にいじめを受けてしまったら、まずいことになると高岡さんは言っていたっけ。
それで僕と高岡さんはクラスで二人で孤立してしまっている。
「高橋君。君は男の子でしょ。そんな事で泣かないの」
と慰めてくれたが僕は悲しくて悲しくて涙が止まらなかった。
本当に駒木根の奴をぶっ飛ばしてやりたいと思ったが、僕は喧嘩も弱くて、彼には勝ち目がないことを知っている。
僕は弱虫だ。そんな弱虫に自分が凄く大嫌いだった。
もっと強くなりたい。駒木根に立ち向かえる力が欲しい。
「おい。高橋、悔しかったら何か言って見ろよ」
駒木根が蔑んだ口調でそう言った。
本当に僕は弱虫だ。こんな自分が嫌になるくらい、弱虫だ。
僕はこの先、弱虫のままで学校に行くたびにいじめられてしまうのか?
そして僕は泣きながらホームルームが始まった。
クラスの篠原先生は僕の泣いている顔を見て、「どうした。高橋」
「何でもありません」
そこで高岡さんは「ちょっと純君、駒木根にいじめられて居ることを言わなくて良いの」
「良いんだよ。僕は先生にチクるような弱虫に何てなりたくない」
一時間目の体育の授業で、ドッチボールをする事になった。
敵側は駒木根で味方側が高岡さんだった。
ドッチボールの試合が始まって、駒木根は僕の顔面を目がけて投げてきた。
直撃して、僕はまた泣きそうになってしまった。
僕は駒木根に目の敵にされている。それに高岡さんは僕の事を心配してくれている。
高岡さん、そんな目で僕の事を見ては欲しくなかった。