第七十一話 デート1
ネリアさん……いや、ネリアが可愛い。可愛いし、綺麗だし、愛しいし、もう、この気持ちをどうして良いのか分からない。
そんな暴走気味の感情を、どうにか制御(?)しつつ城下町へと繰り出す。
「あそこは、美味しいケーキを売っている店なんだ。中で食べられるようにもなっているから、少し寄ってみるか?」
「は、はぃ」
可愛い可愛いネリアを、もうどこにも逃したくなくて、閉じ込めてしまいたい気持ちもある。しかし、そんなことをしてネリアに嫌われてしまえば、俺は地の底まで落ち込んで、命を絶つであろう自覚すらあった。だから、甘く甘く、ネリアを包み込んで、ネリア自身が俺から離れられなくなるくらいまで溺れさせることで、ネリアを完全に囲い込んでしまいたかった。
(だが、それにはプロポーズだって必要だ)
俺の想いを知らないネリアが逃げてしまう可能性はまだまだ高い。ならば、俺の想いを確実に伝える必要がある。そして、俺の半身という事実を認識してもらう必要もある。
(昨日、寝ないで考えたデートコース……確実に、確実に成功させるんだ)
ちなみに、朝から異変に気づいたアルスからの叱責は受けたものの、このデートの重要性を力説すると、納得したのか、諦めてくれた。
「いらっしゃいませ。ようこそ、『天使の憩い』へ。人数は二名様でしょうか?」
「あぁ、二人だ」
「店内の席とテラス席、どちらも空いておりますが、どちらがよろしいですか?」
「ふむ……ネリア、どちらが良い?」
「っ、え、えっと、ど、どちらでも……」
「ちなみに、今の時期、カップルに人気なのはテラス席ですよ」
「っ!?」
「テラス席で頼む」
「っ!!??!?」
おすすめのケーキ店へと向かえば、まだ早い時間だったため、混んでいるということもなく、すんなりと席に着くことができる。
案内されるままにテラス席へと向かうと、すぐにテラス席が勧められた理由に気づいた。
「ほぅ、これは」
「わぁ……」
そこに広がるのは、可愛らしい花々が彩る庭園。確かに、この庭園を見るためには、店内からでは難しいだろう。しかも、階段で庭園に下りて散策までできるというのだから、カップルに人気だと言うのもうなずける。
「ご注文が決まりましたらお呼びください」
店員の声を何となく聞きながら、俺は早速、メニューを広げてネリアと一緒に注文するケーキを選ぶ。
「さぁ、どれが良い?」
「え、えっと……その、よく分からなくて……」
「なら、いちごは好き?」
「は、はい、好き、です」
「これは、いちごを使ったスイーツで、パイっていうサクサクの生地に生クリームといちごっていうのを重ねたスイーツだ。名前はミルフィーユという」
「ミルフィーユ……」
「こちらは、いちごのババロアだな。空気を含んだようなフワフワとした、それでいてしっとりした感触のスイーツだ」
「ババロア……」
「あぁ、これは三種のベリータルトだな。三種類のベリー、ブルーベリーとラズベリーといちごを敷き詰めたスイーツで、下のタルト生地というのは、クッキー生地みたいに固いがそれがまた美味しい」
「ベリータルト……」
知らないスイーツを前に目を輝かせるネリアが可愛くて、ついつい勉強の成果を披露してしまう。
結局、迷いに迷ったネリアは、ミルフィーユを注文し、俺はネリアが迷っていたベリータルトを注文しておく。あわよくば、ネリアに食べさせてあげたいと思うのは、半身を前にした王族としては当然のことだろう。




