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第七十話 甘くてドキドキなネリア(ネリア視点)

 ドキドキとうるさい心臓は、そのまま中々平常通りに戻ってはくれない。お忍び用の小さめの馬車に手を取って乗せられて、そのまますぐ隣に座るゼス様を見れば、もう、静まる気配など微塵も感じられない。



(う、うあぁ……)



 ゼス様が私の色を纏っているという事実が、どうにも大きい。この恋心が暴走しないように抑えなければならないとは思うものの、一体どうすれば抑えられるのかも分からないという有様だ。



「城下町に行くのは初めてだろう? だから、今回は俺のおすすめのお店を案内するということで良いだろうか?」


「は、はい」


「それと、俺の名前は呼び捨てで。ゼスなんて名前は、そう珍しくもないから、是非ともネリアさんに呼んでほしい」


「よ、呼び捨て!?」


「あぁ、それと……ネリアさんのことも、呼び捨てで呼んでも良いだろうか? それとも別の名前を用意してみるか?」



 馬車の中での会話は、だいたいこんな内容のものだった。ただ、どれもこれも、ゼス様の甘く蕩けるような瞳で問われるせいで、あまり頭に入ってこない。



「そうか、なら、ネリア」


「っ、は、はいっ」



 名前の呼び捨てに関して、思うところは何もなかったはずなのに、実際に呼ばれてみるとこうも破壊力があるものなのかと戦々恐々としてしまう。



「ネリア。あぁ、可愛いな」


「かっ……う、うぅ」



 私は、今何を試されているのだろうかと、混乱する頭の中でチラリと思いながら、その甘すぎる表情にドキドキが止まらない。



「ネリア、ネリアっ、さぁ、俺の名前も呼んでみてくれないか?」



 これ以上、恥ずかしいと思える上限はない。そう、思っていたのに、ゼス様の要望は、それを容易く越えるであろうという予想がついてしまった。



「ぁ、ぁ……」


「ほら、ネリア。俺の名前、呼んで?」



 格好いいのに可愛い。そう思えるおねだりに、私は容易く陥落してしまう。



「ゼ、ゼス……」



 私は、ゼス様の半身ではない。半身ではない、はずなのに、今、私の心は歓喜に満ちていた。



「っ、破壊力が……」



 だから、そんな私は気づいていなかったのだ。ゼス様が、そっと真っ赤な顔を背けて、そう呟いて悶えていたことなど。


 甘い、甘い、角砂糖にシロップをかけたよりも更に甘い空間は、目的地に到着して、空気が入れ替わることによってようやく、少しだけ薄まる。それでも、ゼス様の向ける視線の甘さに何度も心臓を暴れさせながら、私の最初で最後のデートは始まった。

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