第六十九話 待ち合わせるネリア(ネリア視点)
全く、欠片も考えがまとまらないままに、一日を過ごした私は、今日、寝不足な頭でお出かけについて考える。
(ゼス様と……お出かけ……)
しかし、鈍い頭は、『ゼス様』と『お出かけ』以外の文言を浮かべてはくれない。いつの間にか朝の支度は終わっていて、いつの間にか朝食を食べていて……いつの間にか、ゼス様と待ち合わせている場所に向かっていた。
「っ、ア、アルマさん、私、ゼス様と、お出かけなんて……」
「大丈夫ですよ。とても良くお似合いです」
そう言われて、自分の格好を見下ろしてみれば、ふんわりとしたワンピース姿だった。
ほんのりと淡い黄色に、鮮やかな花の模様が胸元と裾の部分に広がるワンピース。帽子は真っ白の柔らかい布素材のもので、ツバが広いものだということが分かる。
「城下町ですので、お忍びスタイルです。さぁ、殿下がお待ちですよ」
ゼス様が待っている、という言葉に、行きたいような行きたくないような気分になりながらも、行かないという選択肢は取れず、大人しくアルマさんへと着いていく。
「あ……」
お忍びだから、裏口からということで馬車まで案内されると、そこには、髪と瞳の色を変えたゼス様が居た。本来の銀髪ではなく、モスグリーンの髪に、黄金の瞳はオレンジの瞳に……そう、それは、私と同じ色になったゼス様だった。
「おはよう。ネリアさん。あぁ、やっぱり、とてもきれいだ」
私の色を纏ったゼス様が、何かおかしなことを言っている。
(きれい? 何が……?)
「ネリアさんも色を変えるか? 私……いや、俺は、ネリアさんの色にしたくて、この色を頼んでみたが……ネリアさん?」
(私の色……私の、色に、したくて……?)
それは一体どういう意味だろうか? いや、意味などないのかもしれないが、それはそれで、ゼス様の半身に申し訳ないというか、でもそれでも嬉しいというか……。
「ネリアさん、顔が赤いようだが」
「大丈夫です! さぁ、行きましょう!」
そっと手を伸ばされかけて、私はようやく正気に戻る。
「あ、あぁ、そのままで良いのか?」
「はい、大丈夫です!」
これ以上はダメだ。ゼス様が私の色を……なんてことを考えていたら、きっと、このまま一日が過ぎてしまう。そう思って元気良く返事をすると、ゼス様は、蕩けるような笑みを浮かべる。
「そうか……あぁ、やはり、ネリアさんの美しい髪も、瞳も、下手に違う色にすべきではないな。全てが、俺の好きな色だから」
「!!?!?」
何か、今、耳がおかしくなった気がする。いや、気がするではなく、きっと、確実におかしくなっている。
「ふ……さぁ、行こうか」
「ぁい……」
頬が熱い。ゼス様の眼差しが甘い。
(ど、ど、どどど、どう、しよう……)
本日は、この恋心を抑えることが、最大の試練になりそうだった。




