第六十八話 朝を迎えるネリア(ネリア視点)
ぼんやりとした頭で目を覚ました私は、重い体を起こして、夢のことを思い出す。
(ゼス様の半身が、私なら良かったのに……)
夢というのは都合の良いもので、ゼス様の半身が私であり、相思相愛なんていう設定だった。そんなことはあり得ないというのに、きっと、半身の女の人は、私なんかよりもずっと、ずっと綺麗な人だと理解しているのに……。
モスグリーンの髪は、昔に比べれば随分と艶が出てきてはいるものの、それでも、雑草色だと言われていた色のままではある。そんな、雑草のような私、しかも、落ちこぼれの私なんかに、ゼス様の半身に選ばれる道理はない。
仕方ないと、分不相応だと、自分を納得させる言葉はたくさん出てくる。幸せな夢であったからこそ、それが夢であるという現実が苦しい。
「姫君、起きていらっしゃいますか?」
「っ、はい」
入室してきたのはアルマさん。いつも、朝になると一番に来てくれるアルマさんは、私の朝の身支度を手伝ってくれる。
「本日の朝食はどのようになさいますか?」
「あ……その、ここで、食べたい、です」
「かしこまりました。では、そのようにいたしましょう」
ゼス様と会えない期間は終わったらしく、食事も、ゼス様と摂ることはできる。しかし、ゼス様の半身のことを思えば……いや、それ以上に、先程の夢のことを思えば、今の私が会えるはずもなかった。
優しく微笑むアルマさんは、食事をこちらへ持ってくるようにと外に控える誰かに告げに出る。
「殿下?」
ただ、その最中に聞こえてきたアルマさんの言葉に、私は思わず、ビクリと顔を上げて……。
「おはよう。ネリアさん、体調はどうだ?」
どこか疲れた様子を見せながらも微笑むゼス様を目撃してしまった。
「ど、どうぞ、お構いなく」
「ん? あぁ、私の食事もこちらへ持ってくるように。ネリアさんと食事をしたいからな」
「……御意」
どうにかゼス様から逃れようとするものの、なぜか、ゼス様からは距離を詰められてしまう。頼みの綱であるアルマさんも、ゼス様の言葉には忠実に従って引き下がってしまう。つまりは……味方が、居ない。
「さて、ネリアさん、明日は一緒に出かけようと思うのだが、どうだろうか?」
「え? えぇ?」
当然のように私の目の前の席に着いたゼス様は、なぜか、とても、とても甘い視線を向けてくる。
「あ、あの……私は、その……」
「それとも、私と一緒に居るのは嫌だろうか?」
「そんなことはありませんっ」
悲しそうに見つめられて、私はついつい、そんな返事をしてしまう。
(って、違う違うっ! 今、私がゼス様と一緒に居るのは、何というか、危険で……)
自覚したばかりの想いが暴走しないとも限らないと理解している私は、すぐさまお出かけの方は否定しようとするのだが、その前に、ゼス様の嬉しそうな笑顔を見てしまって、何も言えなくなる。
「そうかっ! ならば、今日は明日のために色々と準備をすることとしよう! あぁっ、楽しみだ!」
ここまで楽しみにされて、一体誰が、『お出かけは無理』などと言えるだろうか。結局、私はそんな約束をゼス様と取り付けてしまうことになった。




