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第六十六話 荒ぶるゼス(ゼス視点)

 何を話してくれるのだろうかと、期待と不安でごちゃまぜな心のままに、ネリアさんの目の前の席に腰掛ける。

 どことなく嬉しそうにするネリアさんの様子に、このまま時間が止まってくれないだろうかと馬鹿なことを考えていると、その小さな口が、躊躇いがちに開かれる。



「私、ここに来られて良かったなぁって思うんです」



 告げられたのは、そんな嬉しい感想。



「そうか。それは良かった」



 そうであるならば、ずっと、ここに居てくれれば良い。そう、言おうとしたところで、ネリアさんがまた、何かを話そうとする気配に口を閉ざす。



「でも、私は、ここに居られないんです」


「居られない?」



 最初の言葉からはかけ離れた内容に、オウム返しに尋ねながらも、その理由は察していた。



(やはり、危険と隣り合わせなのは、俺の半身という立場は、嫌なのだろう、な……)



 自分で考えても悲しくなるが、その現実を突きつけられるのはもっとツラい。それでも、愛しい半身の言葉に耳を塞ぐことなど、できはしなかった。



「はい、このままだと、迷惑をかけちゃいますし、私自身も、長くは生きられませんから」



 そして、その言葉に、俺はしばらく、ネリアさんに何を言われたのか理解できなかった。



(…………長く、生きられ、ない……??)



 単純な内容であるはずなのに、それを理解することを、俺の頭は拒否してくる。



(なぜ……? 健康に、命に、問題があるようなことは、何も……)



 無言のままそう考えている間に、ネリアさんは言葉を続ける。



「私の力は、きっと、オチ国を浄化するための力です。そして、それを使い切ってしまえば、私は死ぬしかない。……でも、それで良いんですっ」



 暗い顔をしていたかと思えば、明るく振る舞うネリアさんの姿に、俺は、どう反応すべきなのかも分からない。それでも、一つだけ言えることは……。



「良く、ない……」



 ネリアさんが自らの死を受け入れているなどという現状を、俺は、どうしても見過ごせなかった。



「良くないっ! なぜ、ネリアさんが死ななければならないっ! オチ国などどうでも良いっ! 私はっ、ネリアさんが居てくれさえすれば、それだけで良いんだ!!」



 ついつい溢れ出した思いを、俺はネリアさんへまともにぶつけてしまう。

 原因など何も知らないくせに、それでも、ネリアさんを失うということが耐えられなかった。



「っ……ふふっ、夢でも、嬉しい、です……」



 そして……俺は、笑顔を浮かべながら涙を流すネリアさんを前に、何も、言えなくなってしまった。

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