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第六十二話 自覚するネリア(ネリア視点)

「……恋…………?」



 私が読んだものは、一般的に恋愛小説と言われるもの。その存在は知っていたものの、内容までは理解できていなかったもの。



「なん、で……」



 いや、いっそのこと、理解できないままの方が良かったのかもしれない。気づかないままであれば、この痛みを、ここまで意識することはなかったのかもしれないのだから……。



「私は……ゼス様の、ことが……」



 自覚してはいけないと思うのに、もはや、それを止める手段などない。どうすれば止められるのか、全く分からない。



「……好き……」



 零れ落ちた言葉は、きっと、とても、とても小さかった。しかし、どんな言葉よりも、重くて苦しい、鋭い痛みを伴うものでもある。


 もっと頭が悪ければ良かったのに。もっと鈍ければ良かったのに。

 そうしたならきっと、私は、知らないままでいられたのだから……。



「ダメ、なのに……なんで……どう、して……」



 ゼス様には、ちゃんと半身が居る。こんな落ちこぼれの私なんかよりも、きっと素敵な半身が。

 ゼス様の愛情が私に向くことはない。もし、向けられたとしても、親愛以上のものはあり得ない。


 気づいたと同時に失恋した私は、きっと、ただの愚か者だ。なにせ、ゼス様の心が私に向かないと分かっていてもなお、恋しい気持ちが抑えられないのだから。



「ダメ……ダメ…………」



 諦めなければならない。半身というのは、何にも代えがたい、命を繋ぐ存在なのだから。嫉妬してはいけない。そんなことをしても、ゼス様の心がこちらへ向くことなどないのだから……。



 どれくらい、そうしていただろうか。無意識のうちに溢れ出していた涙は、無造作に取り上げた枕をしっとりと濡らしている。

 ゼス様のことが好きで、ゼス様に会いたくて、ゼス様の言葉が聞きたくて……それでも、私は、それを諦めなければならない。



「私は、もう、長くないのだから……」



 役目を終えれば消えるはずの命。だからこそ、ゼス様を愛するわけにはいかないという理由もある。

 数多の言葉で理由付けして、必死に溢れそうな心を押し込める。押し詰めて、蓋をして、忘れてしまえば、もしかしたら、最期の瞬間も辛くはないかもしれない。



「そう、よ……。私が、役目を果たせさえすれば……」



 役目を果たすことは、きっと、ゼス様の幸福にも繋がる。

 想いを伝えることはできないけれど、ひっそりと消える予定ではあるけれど、それでも、ゼス様のために頑張れたのだという事実だけで、私は、思い残すことなどなくなりそうだった。



「ゼス様……」



 そうして、私は、そっと、誰にも認識されずに消える。その、はずだった。

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