第五十九話 忠臣に想われるゼス(ゼス視点)
いつまでそうしていただろうか。さすがに、仕事をしなければならないと、俺は頭を働かせる。
今回の事件は、まだ終わってはいないのだから。
ヘイル・シシエラという男は、ウォルフ王国において忠臣として知られていた。実際、ウォルフ王家からの信頼もある男であり、こんな事件を起こすなど、誰も考えていなかったに違いない。しかし、ヘイルは、忠臣ゆえに、事を起こした。自らが掲げる第一王子の派閥が実質解体状態となり、王としては足りない第二王子と第三王子、そして、まだ幼い第四王子の派閥が台頭したことがきっかけだった。
どの王子も、第一王子に比べると劣る。それなのに、第一王子は半身が見当たらないというだけで王座から一気に遠ざかっていく。その現状を憂えたヘイルは、意図的に、第一王子の半身を作ろうとした。つまりは……。
「全て、俺のため、だったんだよな……」
プリムレインの花を使って生成した薬が、半身を擬似的に認識させることができるのは、元々、俺に半身を得させるためだったのだ。ただ、実験をしないままにそれを俺に使うことはできない。だからこそ、ヘイルはそれが大きな罪となることを自覚しながらも、ルキウスとジェスを実験体とした。
「随分と、盛大にやってはくれたが……」
アルモニア家とべゼフ家は、シシエラ家が仮に掌握した第二王子の派閥に所属していた。ただ、元はこの二家もシシエラ家と同じく、第一王子の派閥に参加していた家であり、シシエラ家と深い繋がりを持っていたのだ。
だから、シシエラ家が彼らに指示を出して、実験を行うことは不可能ではなかった。むしろ、影響力が強いシシエラ家ならば、よりどりみどりで協力者を得ることはできた。
しかし、ヘイルの中で選択肢はあまりにも少なかったのだろうと、ヘイルの心情を知った今なら分かる。
表舞台から消えても影響力がさほどなく、第二、第三王子にこれまで一度も接触したことのない年頃の娘を持つ家。そして、第一王子と敵対関係にある家が望ましいというのが、きっとヘイルの理想。ただ、敵対関係にある家という条件までは満たせず、ヘイルはしぶしぶアルモニア家もベゼフ家を協力者としたようだった。
「予想外は、ベゼフ家の行動のみ。そして、恐らく二人は……いや、四人の行方は、ベゼフ家が知っている、か……」
原因は不明だが、ベゼフ家は、ルキウスとジェス、そして、二人の半身もどき達を隠しているらしかった。




