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第五十七話 謝られるネリア(ネリア視点)

 アルスさんを送り出して、その後、ゼス様が来たのは、すぐのことだった。



「ネリアさんっ! すまない! 目が覚めた時に側にいられなくてっ。いや、それ以前に、みすみす誘拐なんてさせてしまって、本当に申し訳ないっ」


「えっ!? あ、あの……?」



 怒涛の勢いで謝罪されて、私は言葉に詰まる。

 ゼス様は、私の姿を認めるや否や、ほぼ駆け足で私の前に来たかと思えば、ガバリと頭を下げて、現状を生み出していた。王子という立場の人間がそんな風に頭を下げて良いのかとかいうことを考えるより前に、そもそもの思考が停止してしまう。



「だが、もう、次はあり得ない。誘拐の手口も判明したし、対策もした。ただ、ネリアさんには、恐ろしい思いをさせてしまっただろう。謝って許されることではないが、それでも……すまない」



 意識を失う少し前に、久々にゼス様の姿を確認したことは覚えている。このまま会えないで死にゆくのだと思っていたのに、ゼス様に会えて、とても嬉しかったことも。



「そして、申し訳ないが、ここからは、第一王子という立場で尋ねたい。……あの屋敷を破壊した者に、心当たりはあるか?」



 ドクリ、と、心臓が嫌な音を立てる。

 心当たりも何も、あの場所を破壊したのは私だ。全てを破壊して、誘拐犯に迷惑をかけて、それで、命を終わらせるつもりだった。しかし、今、目の前で、必死に私のことを気遣って、恐る恐る尋ねるゼス様に、それを言うのは躊躇われる。



「そ、その……」


「言いたくなければ、言わなくて良い。ネリアさんは被害者なのだから、その辺りの融通はきく」



 言い淀む私に、ゼス様は慌てたようにそう言い繕う。



「……ごめんなさい」


「いや、ネリアさんが謝ることではない。こちらでも調査は続けるし、ネリアさんに危害を加えた者は、確実に捕らえる」



 ……どうにも、話がおかしな方向へ進んでいる。そう自覚はしても、私は、それに上手く口を挟めない。ただ、ゼス様の言葉にうなずくだけで精一杯だ。



「それ、で、だな……。ネリアさんは、やはり、城を出たい、のか……?」



 先程までとは一転して、途端に緊張に満ちた表情となったゼス様を前に、私は、どう答えるべきなのかを悩む。

 きっと、ゼス様は半身との時間を邪魔されたくはないはずで、私には使命もある。そうなると、将来的に城を出るのは確実だった。分からないのはただ一つ。ゼス様がどういうつもりで、この質問を投げかけたのか、ということだ。

 すると、私が迷っていることに気づいたゼス様が、再び口を開く。



「素直に話してもらえると助かる」



 そっと、哀願するような切実な声に、私は、すぐに折れることとなった。

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