第五十六話 疑問を抱くネリア(ネリア視点)
一人ぼっちには慣れている。閉じ込められることにも慣れている。理不尽な目に遭うのだって慣れている。それ、なのに……。
(私……どうして、震えて……?)
目が覚めると、ゼス様は側には居なくて、アルスさん達が私に謝ってきていた。誘拐されたことに気づけなかった怠慢がどうのと言ってはいたが、よく意味が分からなかったし、責められるべきは、誘拐されたにもかかわらず、未だ自決できていない私の方だと思えた。しかし、それを自覚できている私は、まだ、自らの命を絶つ覚悟ができていない。
(ゼス様……私を、庇って、た……?)
それは全て、ゼス様の行動が原因だった。
(でも、ゼス様は、半身が居て……)
ゼス様のことは大好きだ。しかし、だからこそ、ゼス様は、あのまま私を見捨てるべきだったのだと思える。
(ゼス様は……優し過ぎる……)
胸が、とても、とても痛かった。ゼス様は私を大切に扱ってくれるのに、アルスさん達は私に色々と尽くしてくれるのに、なぜか、とても、痛い。
「姫様、温かいココアをお持ちしました。きっと、気分が落ち着きますよ」
「ぁ……ありがとう、ございます」
アルスさんに気遣われて、ひとまずは温かなマグカップを受け取る。マシュマロが浮いたココアは、確かに心を落ち着けてくれる。ただ、それでも心に生まれたモヤモヤとしたものは治まってはくれない。
「姫様、今日はどうか、ゆっくりと休まれてください。御用がございましたら、いつでも、私やアルマが伺いますので」
気遣わしげなアルスさんの言葉に、私は一応うなずく。
自害を求められると思っていたのに、アルスさん達は、欠片たりともそんなことは言わない。むしろ、私が生きていることにホッとしているようにすら見える。
「……私は、生きてて良かった、の……?」
ぼんやりと、つい、思っていたことを口にしていた私の前で、アルスさんは大きく目を見開く。
「なっ、姫様! なぜ、そのようなことを! っ、そうか、誘拐犯に何か言われたのですねっ!? やはり、私も拷も……いえ、尋問に向かうべきでしたかっ」
「えっ? あ、あの……?」
何やら怒涛の勢いで結論を出していくアルスさんに、私は声をまともにかけることもできず、オロオロする。
「ご安心ください。姫様を害する存在は、すぐにゼス様が滅してくださいますので。いえ、むしろ、ゼス様ができなければ、私が身命を賭してでも滅してみせますので、姫様はどうか、体を休めてくださいっ」
よくは分からないものの、どうやらアルスさんは真剣で、『はい』以外の台詞を求めてはいないようだった。
「わ、分かり、ました……」
「では、すぐにゼス様を連れて参りますので、少々お待ち下さい」
どこか興奮した様子のアルスさんを、私はただただ、見送ることしかできなかった。




