第五十五話 悩むゼス(ゼス視点)
これで全てが終わる。ルキウスもジェスも救出して、ネリアさんとゆっくり過ごせる。そう、思っていたはずなのに……事態は、そう簡単に動いてはくれなかった。
「何だと? それは本当なのか?」
「はい、隈なく調査を行いましたが、ルキウス殿下もジェス殿下も、未だ見つかっておりません。また、シシエラ家当主、ヘイル様もお二人は屋敷には居られないと証言しております」
ルキウスやジェスが囚われているとすればこの場所が一番可能性としては高かった。にも関わらず、騎士達は見つからないと報告してくる。
「……ヘイルが二人の居場所を知っているのではないか?」
「それが、ヘイル様はゼス殿下と二人でなければ話せないとのことで、現在、貴族牢にて拘束しているという状況です」
あの後、意識を失ったネリアさんを抱き締めて、ひとまずは城へと帰還した。
ネリアさんの姿を見つけたアルス達は、安堵と不安と心配とがごちゃ混ぜになった表情だったが、とにかくネリアさんのお世話を頼んでおいた。アルス達が、ネリアさんの誘拐を止められなかったことで自らへの処罰を求めていることも理解しているが、正直、今はそれどころではない。ネリアさん誘拐の真実もまだ掴めてはいないが、今大切なのは、さっさとこの件に決着をつけることだった。
「分かった。すぐに向かおう」
何を話すつもりなのかは知らないが、ネリアさんとの時間を確保するためにも、行動は早いに越したことはない。
シシエラ家の屋敷は取り押さえ、そこに居た使用人は捕らえてある。また、ヘイルの家族は外出中であったため、そちらは騎士を向かわせているところである。
(疑問点はいくらでもある。ルキウスやジェスのこともそうだが、なぜ、ネリアさんを攫った後、そこにあの執事しか使用人が居なかったのか、というのも大きい)
ヘイルの行動には矛盾点が多すぎる。ルキウスとジェスに偽りの半身を宛てがうことができたのであれば、俺にも同じことができたはずだ。半身が見つからないことに囚われていた俺相手ならば、いくらでもその工作は可能だっただろうというのが、今、冷静になってから思うことだ。しかも、ネリアさんを攫ってからそれなりに時間が経っているはずなのに、ヘイルは屋敷でじっとしていた。それはまるで、俺が来ることを予期して、待ち構えていたかのよう。
(何もかも問いたださねばならないな)
全ての答えが得られるとは思っていないが、少なくとも、ヘイルの目的は反逆のため、というのは違うと、今は思える。
早くネリアさんと過ごすためにも、俺は、早足で牢へ向かった。




